慢性化した痛みの正体は
究めてまれな疾患の合併症

「顔面神経麻痺、顔面の痛みの発症状況および現在の痛みの症状と感覚検査結果から考えて、あなたの2年前の初発時の痛みは、左側三叉神経第2枝、第3枝帯状疱疹(たいじょうほうしん)で、顔面神経麻痺は帯状疱疹ウイルスによるラムゼイハント症候群であったと推定されます。

 そして現在の状況は、三叉神経帯状疱疹の後遺症としての帯状疱疹後神経痛、およびラムゼイハント症候群の後遺症としての顔面神経麻痺と診断されます」

「三叉神経帯状疱疹とラムゼイハント症候群、なんですかそれは」

 医師の言葉を反復し、シンペイさんは首を傾げた。

「帯状疱疹という病名は聞いたことがありますよね。水ぼうそうも帯状疱疹もラムゼイハント症候群も、水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)という同じウイルスが原因で起こります。

 このウイルスに初めて感染すると水ぼうそうを発症します。だいたい子ども時代です。水ぼうそうにかかると、体内に抗体ができて、水ぼうそうは治ります。しかしウイルスは、神経節や脊髄神経などに侵入して、一生涯にわたって体内に潜伏するようになります。ウイルスが神経節などに潜んで活動していない間は、症状は起こりません。

 しかし、疲れたり体調を崩したりした時に、ウイルスは再び活動を開始し、神経を伝わって皮膚に出て水疱を作ります。これが『帯状疱疹』です。

 帯状疱疹の年間発症率は人口10万人当たり300~500人で、その中の4分の1が三叉神経領域に生ずるといわれています。

 ラムゼイハント症候群も帯状疱疹の一種で、年間発生率は10万人当たり5人。帯状疱疹患者の約1%程度しか発症しないまれな疾患です。

 従って、あなたのように、三叉神経領域の帯状疱疹とラムゼイハント症候群が合併する例はかなりまれなケースです」

「かなりまれではあるけれど、私の顔の神経麻痺と痛みは関連しているということですよね。これまで診てもらった病院では、麻痺と痛みは関連しないと言われ、痛みについてはロクな治療をしてもらえませんでした。2年間も……」

 シンペイさんは声を震わせ、泣いた。医師は、慰めるように言った。

「まれなケースが重なった、非常に不幸な症例です。痛みが続いているのに、顔面神経麻痺と痛みは関連しないという医療者の先入観で、痛みについて専門的に診査することなしに、2年間も経過してしまった。つらかったでしょう。