ただし、テルアビブマラソンのように市民向けの大会では十分成立するが、正確なタイムを競い合う公式大会では、不正行為やアプリのバグを防ぐ仕組み作りが別途必要になる。いずれにせよ、公式大会で使用するには改良の余地があると言えるだろう。

「高度な技術」と「失敗を責めない文化」
「どう生き残るか」という問題意識が明確な国

 科学技術の発達は、特定の問題を解決するための技術の開発の繰り返しの上に成り立つ。イスラエルにも国防、食糧確保、外交、教育などにおいてさまざまな課題が存在するが、その根本には「イスラエルがどう生き残るか」という明確な問題意識が存在する。イスラエルほど、明確な目的に対して、明確な手段を作り出すことに秀でている国はなかなかないと思う。

 また「失敗を責めない文化」が共有されており、新しい取り組みが仮にうまくいかなくとも、それよりも「で、これからどうするの?」という視点が重視される。以前執筆した記事でも触れたが、「とりあえずやってみて、ダメなら別の方向性を探ろう」という感覚が国民の間にも共有されている。

 その一方で、日本は高度な技術を持ちながらも、その技術力を持て余している節がある。最近も多額の税金を投入して作った、コロナ接触確認アプリ「COCOA」の不具合が指摘されたばかりだ。詳しい経緯は不明だが、結局そのアプリを「何のために作るの?」「それがどう役に立つの?」といった目的についての議論が甘い。そして、それを使うユーザーの視点に立てていないのではないかとも感じる。

 もっとも、イスラエルの人口は1000万足らず、国土も四国と同じくらいの大きさで、その12倍の人口とより広い国土を持ち、また歴史的・文化的な成り立ちも異なる日本とを単純に比較することはできないが、この国から学べることは非常に多いと思う。

 日本政府は、ワクチンの接種を含む感染対策を施しながら経済活動も再開させて、本丸の東京オリンピックを成功させる、という「曲芸」を課されている状態ではあるが、ぜひ各国の先進事例も参照しながら前に進んでほしい。