永井 一方、ドリンクの場合はペットボトルを使うために加熱工程が入ります。その結果、どうしても色も味も悪くなってしまう。それを経てもなお特徴的な香味を残すことが求められるため、さまざまな種類の茶葉に対してそれぞれ個別に火入れをして、それらをブレンドすることで味を複雑化する必要があります。
高級な包装茶に対して、百数十円で手に入るペットボトルのお茶は相対的に「安かろう悪かろう」というイメージを持っている人もいるかと思います。しかし実際はどちらかというと、ペットボトルの方が火入れやブレンドをこだわらなくてはいけないんです。

脇 ペットボトルのお茶の設計をしたことがある人は少ないと思います。リーフとドリンクの設計を両方とも経験している人は日本に数人しかいないのではないでしょうか。
――永井さんはなぜリーフとドリンク両方の設計経験を持つに至ったのでしょうか?
永井 商社に入社して最初はコーヒーの仕事をしていたのですが、その仕事がなくなって入社3年目からお茶の担当になりました。静岡県の工場に出向して管理の仕事をすることになったのですが、周りに何もないので「お茶一色」の生活になり、そこでいろいろな知識を身に付けました。
何か体系だった教科書みたいなものがあるわけではないので、農家さんのところやさまざまな現場へ通い詰めて、見よう見まねで学びました。例えば、お茶の官能評価をしている人のまねをしてみて、自分なりの意見を言ってみるとか。
お茶の官能評価をする人って、独特な例え方をするんです。「きゅうりの味」「畳の味」みたいな表現をします。だから、「この味が畳の味か、自分が表現するならこうだな」という経験と知識を蓄積していきました。
そのうちにお茶の仕入れや開発も担当することになり、工場でリーフとドリンク両方の仕事をするようになりました。
そのときに気づいたのが、先ほどお伝えしたリーフとドリンクの設計の決定的な違いです。リーフのやり方ではどの飲料メーカーさんにも刺さらない。このことに気付けたのは大きな発見でした。