介護施設で
「老衰死」が増えている理由

 病院死比率の多い1990~2009年には、老衰死は2万~3万人と低迷状態が続いた。「入院し病名が付いて亡くなる」のが当然とされた。介護保険制度の定着で特別養護老人ホーム(特養)や有料老人ホームを中心に施設が普及していくとともに、施設死が増えていく。その施設死の増大と歩調を合わせるかのように、老衰死が増えてきた(図5)。

 特養入居者の死に場所と死因の推移でよく分かる。1990年代から2007年までは入院中の死亡者が、特養内での死亡者よりも多かったが、以降逆転する(図6)。

 2016年には、特養内での死亡者の死因を見ると老衰死が約65%にも達した(図7)。

 これは、介護保険施行の2年後から新設の特養は原則として全室個室タイプしか認めなくなったことが大きな要因だろう。終末期を迎えた入居者のベッド脇で家族が気兼ねなく過ごすことができるようになった。入居者本人も、自宅から身の回りの調度品を持ち込み「第2の自宅」と思うようになる。なかには、仏壇を部屋の中に置く光景も珍しくない。

 個室が主体の有料老人ホームでは、事業者の競争が進み、高額の入居一時金の低廉化が加速した。一時金なしや月払いとの両立を打ち出す事業者が大半となり、入居しやすくなった。2011年に制度化されたサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の普及も、施設への引っ越しを後押しした。

 こうした施設の充実で、入院せずに施設での看取りを家族や本人が望むようになる。看取りには訪問診療医や訪問看護師が来訪する。「第2の自宅」での死は、延命治療を求めないことが多く、自然な死、老衰死となる。その結果、2019年には場所別の老衰死で、施設(老人ホーム)が病院をかなり上回って過半数近い46%となった(図8)。死亡者全体では施設死比率はわずか11.6%なのに、老衰死を見ると老人ホームの比率が断然高い。

 一方で、老衰死の場所として、病院がいまだに37%と高い比率だ。3人に1人以上である。他の病名を合わせたすべての病院死比率が72.9%もあるのに比べれば、少ない。それでも、老衰の自宅死比率14.4%と比べるとかなり多いといえるだろう。

 老衰死は厚労省の定義にあるように病名を特定できない自然死だから、一見、自宅死が多いように思われる。本人も家族も延命治療を望まなければ、治療目的の入院を避ける。「自宅で死にたい」という思いは、「病院は御免」となるからだ。