中国の地方の上映会でも
大きな話題に

 その映画は「ケアニン~あなたでよかった~」(製作:ワンダーラボラトリー、原案:エグゼクティブプロデューサー・山国秀幸氏)。

 2017年に日本で上映されたときも、医療・介護に携わる人々の間で注目された映画だ。ストーリーは、20代の新人介護福祉士の大森圭(役:戸塚純貴)の体験に基づいて展開していく。圭は介護の専門学校を卒業後、ある小規模介護施設で働き始める。認証症の利用者たちとコミュニケーションがうまくとれず悩んでいたとき、初めて担当する70代の星川敬子という女性と出会う。そこから認知症ケアと向き合い、彼女の家族とも関わっていく中で、自身も成長していくという物語だ。

 この映画は、実話に基づいて制作されたものであり、日本で名高い介護事業者、あおいけあの小規模多機能施設をモデルにしたものである。

 中国ではこの映画の効果は絶大で、地方でも介護職を目指す若者が出るなど、若者の就職志向にまで強く影響している。

中国で開催された上映会の様子中国で開催された上映会の様子

中国における
「認知症ケア」と「介護」の現状

 ではなぜ、この映画が中国で多くの人々に感動を与えたのか。特に、認知症への認識が大都市に比べ著しく遅れている地方にまでブームが広がったのか。

 それには、まず、中国で「認知症ケア」と「介護」という仕事が置かれている現状について説明する必要があろう。

 実は中国では、上海や北京など一部の大都市や先進的な一部の介護施設を除くと、ほとんどの介護施設が認知症高齢者の入居を拒否しているという現実がある。

 それは介護職員による虐待や不慮の事故などといったリスクを負いたくないという理由からである。「負いたくない」というよりも、「負えない」のが正確であろう。家族から訴訟でもおこされたら、大変なことになるからだ。

 また、大半の介護施設で、まだまだ認知症ケアの知識やノウハウも乏しい。

 そもそも「認知症」は、これまで「痴呆症」と呼ばれ、中国では「差別的な目」で見られてきた。家族は、親が認知症になれば「近所に知られたくない」と思い、徘徊することなどを恐れ、家に閉じ込めてしまうのだ。