自分を「客観視」すると、
見えてくるものがある
そして、「二人目」の子どもが産まれ、いま家族で軽井沢に遊びにきている……。
産まれたばかりの赤ちゃんはもちろん、無邪気にはしゃいでいる幼い長女も、僕が守ってやらなければならない。そして、僕が苦境に陥っていることを感じ取っているのかいないのかわかりませんでしたが、いつも通り明るく家族の世話をしてくれている妻を見ていると、なんとも言えない気持ちになりました。
彼女だって、僕が不安定な職業に転職するのが不安だったはずです。
その不安を飲み込んで、僕の背中を押してくれたにもかかわらず、仕事がうまくいかず、転職したことを後悔してもいる自分がいる……。彼女を安心させて、彼女を笑顔にしてあげなければいけないのに、俺は何をやってるんや? めちゃくちゃカッコ悪いやん、俺……。
そうやって自分を客観視していると、すごい反発心が湧き上がってきました。
アホか、俺は……。落ち込んでる場合か? 嫁さんや子どもにカッコ悪いところなんかみせられるわけないやろ!
そもそも、俺は、日本一になりたくて、カッコつけたくて、この世界に来たんやろ? これまで俺のことをコケにしてきたヤツらも見返してやるんやろ? カッコつけるためには何が必要や? 決まっとるやろ、結果や。結果を出すしかないんや。いや、結果を出すために、自分ととことん向き合って、一生懸命やっている姿がカッコええんや……。
「最悪の未来」をリアルに想像してみる
このように自分を叱咤しながら、あえて最悪の状態を想像しました。
京大アメフト部のときと同じように、「さぼりたい」「逃げたい」という弱さに流されて、「本気」になってやり切らないままでは、営業という厳しい仕事で絶対に結果を出すことはできません。そして、フルコミッションのプルデンシャル生命保険には、結果を出せない営業マンに居場所はない……。
それは、恐ろしい未来でした。
カッコいいことを言ってTBSを辞めて、たった1年で挫折して再び転職している自分。転職を応援してくれた妻を悲しませている自分。それでも、なんとか取り繕いながら生きようとする自分……。
僕は、カッコ悪くて、弱い自分をよく知っています。だからこそ、その未来にはリアリティがありました。心底怖くなりました。そして、「そこ」にだけは絶対に行きたくないという強烈な思いが込み上げてきました。
もう居てもたってもいられませんでした。
テレアポをしよう。そう思い立った僕は、バッグの中から「名刺ファイル」を取り出すと、くつろいでいる家族に「ごめん、ちょっと外に出てくるわ」と言って、宿泊していたコテージを飛び出しました。1週間も休暇を取ることに不安を覚えていた僕は、旅行先でも仕事ができるように「名刺ファイル」を持ってきておいたのです。
コテージは森の中にありましたから、周囲には街灯ひとつありません。
コテージから漏れる光を除けば、真っ暗闇でした。だから、テレアポができるのは「ここしかない」と、車に乗り込みました。
軽井沢とは言え、真夏だから車内はめちゃくちゃ暑かった。だけど、クーラーをつけるためにエンジンをかければ、コテージで眠っている赤ちゃんを起こしてしまう。窓を開けたら、虫が入ってくる。仕方がないので、汗だくになりながら電話をかけるほかありませんでした。
「やりきった」後に、もうひと頑張りする
必死でした。
ついさっきイメージした「最悪の未来」に陥らないためには、今できることを全力でやるしかない。東京に帰ったら、すぐさま営業活動に全力投球するためには、できるだけ多くのアポイントを取らなければならない。だから、僕は、「10人のアポが取れるまで、絶対にコテージに帰らない」と決めて、電話をかけ続けました。
しかも、これまで避けていた方にも電話をするようにしました。
かつて名刺交換をさせていただいたけれども、社会的な地位が高かったり、心理的な距離が遠い方には、なかなか電話しづらいものです。あるいは、一度断られた方や、僕の営業スタイルを非難された方に電話をするのも勇気のいることでした。
だけど、そんなことを言っていられない。いや、「そんな甘っちょろいことを言っているから、俺はダメなんや」と思って、このときは、これまで避けてきた方にも次々と電話をしました。
何時間くらいやったのかは覚えていません。
ほとんどの電話はすぐに切られたり、二言三言で断られますから、効率は最悪。汗でシャツがドロドロになって気持ち悪かったですが、閉め切った車内だったから、傷ついたり、腹が立ったりしたときには、「くっそー!」とか「おっしゃ! 次行くぞ!」とか大声を出せるのは好都合でした。
それに、これまで電話をするのを避けていた方々から、意外にもすんなり「アポOK」をいただけたりもして、これまで勝手に遠慮をして、自らチャンスを逃していたことに気づいたりもしました。
そんなこんなで、なんとか目標の「10アポ」を達成。
ヘトヘトでしたが、その「達成感」は僕を健康的な気持ちにもしてくれました。不安なときに、あれこれ考えごとをすればするほど、不安は「雪だるま式」に膨れ上がっていきますが、不安から逃れるために前向きな行動をすれば、それだけで不安は消えていくのです。
そして、僕は、ふと「よっしゃ、もう一つアポを取るまで頑張ろう」と思いました。アメフト部時代にさぼっていた「限界を超えたところで、もうひと頑張り」を、ここでやることで、「自分の弱さ」を振り切ろうと思っていたのかもしれません。
ともあれ、そのとき、僕は「もうひと頑張り」をして、無事、一件のアポをいただくことができました。実は、このアポが、のちに大きな契約に繋がり、僕が「日本一」になるうえで重要な意味をもったのですが、そのことについてはまた改めて触れます。