「圧倒的な結果」を出した人が、
体験している「心理状態」とは?
結局、その後、東京に帰るまで、毎晩“車内テレアポ”をやりました。
そして、数週間先まで、スケジュール手帳を黄色の蛍光ペンで塗りつぶして、軽井沢からの帰路につきました。不安であることに変わりはありませんでしたが、この休暇でもう一度“ネジ”を巻き直したような感覚があり、東京に帰ったらエネルギーを噴出させるような勢いで動き回ってやろうと思っていました。
そして、翌朝、オフィスに出社したときのことです。
僕の隣に座っている同僚の営業マンが、先日産まれたばかりの長男・榮己について、こんなことを聞いてきました。
「金沢さん、榮己くんが産まれた8月7日って、誰の誕生日か知ってます?」
「いや、知らんわ」
「実は、僕の親父と同じ誕生日なんですよ」
とふざけたように言うので、「なんやコイツ」と腹の中で思っていたら、彼は、「冗談ですよ、冗談」と笑いながら、驚くべきことを口にしたのです。
「実は、8月7日ってドライデンの誕生日なんです。これって、金沢さんがドライデンになる暗示なんと違いますか?」
ドライデンとは、プルデンシャル生命保険の創業者であるジョン・F・ドライデンのこと。そして、個人保険で「日本一」の成績を収めた営業マンには、「ドライデン・アワード」が贈られることになっているのです。
この瞬間でした。パチンとスイッチが入ったように、「俺は、日本一になる」と心が決まったのです。「日本一になる」と信じ切ったというか、「誰にも譲れない」と決めたというか……。とにかく、僕は「本気」になることができたのです。そして、年度末の3月に、奇跡的な大逆転をして「日本一」になるまで、僕は「本気」でやり抜くことができたのです。
なんとなく「神秘的」な話だと、怪しむ人もいるかもしれません。
しかし、これは、本当に僕の心に起きたことでした。そして、これは僕だけに起きたことではなく、圧倒的な結果を残したアスリートや経営者などのお話を聞くと、その多くの方々が同じような体験をされているのです。「俺はできる」「私はやる」と信じ込んだときに、人は大きなパワーを発揮するということなのでしょう。少なくとも、僕はそう信じて疑いません。
ただし、おそらく意識的に自分をコントロールすることによって、そのような「心理状態」になれるわけではありません。
僕自身、それまでずっと「日本一になろう」と自分に言い聞かせながら、本当のところ「本気」にはなれていませんでした。同僚のちょっとした一言が、僕の心のストッパーを外してくれたのです。つまり、心を決めるのではなく、心が決まるのだと思うのです。
とはいえ、ただ「心が決まる」瞬間を待ち侘びているだけでは、100%そんなことは起きないでしょう。やはり、「心が決まる」ためには、僕たちがやっておくべきことがあると思うのです。
「マイナス」を否定する力が、
「プラス」を生み出す
第一に、危機感と真正面から向き合うことです。
あのとき、僕は、「このままいったら、営業マンとしてやっていけない」という強烈な危機感にさいなまれていました。そして、「最悪の未来」を想像して、そのあまりに悲惨なイメージに震え上がりました。
だけど、だからこそ、「”そこ”にだけは行きたくない」という強い思いが湧き上がってきました。
僕は、この反発心が大事だと思います。危機感が強ければ強いほど、未来への不安が強ければ強いほど、その「マイナス」を否定する力も強くなる。この反発心こそが、「心が決まる」という「プラス」の変化を引き起こす原動力となっているように思えるからです。いわば、ネガティブ思考を突き詰めたときに、心に劇的なプラスの変化が生まれるのだと思うのです。
その意味で、仕事がうまくいかず、危機的な状況に陥るのは、辛いことではありますが、それこそがチャンスでもあるということなのでしょう。
そして、第二に、その反発心を活かして、危機的な状況を抜け出すための具体的な行動を起こすことです。
「なにくそ、このままで終われるか」と反発心が生まれても、具体的な行動は「明日から始めよう」ではダメです。反発心が生まれた瞬間に、全力で行動してみる。僕の場合は、それが”車内テレアポ”だったわけですが、あのとき、汗だくになりながら必死で電話をかけまくったのは、決定的に重要だったように思うのです。
なぜなら、状況を変えるのは「思考」ではなく、「行動」だからです。
あの休暇の最中、僕が思い悩んでいるだけだったら、東京に戻っても陰鬱な気分のままだったはずです。僕が”車内テレアポ”という行動を起こして、数週間先までアポを埋めていたからこそ、不安を抱えながらも、「未来の可能性」に向けて希望をもって東京に戻ることができたわけです。
しかも、あのとき、電話をするのを避けていた方々から、意外にもすんなり「アポOK」をいただけたことで、「俺、まだまだやれるんちゃうか?」という楽観も手に入れることができました。これも、思い悩んでいるだけでは絶対に手に入らないものです。行動してみることで、思わぬ可能性が見えてくるものなのです。
さらに、「10人のアポ」という目標を達成したうえで、さらに「もう1人からアポをいただこう」としたこともよかった。
なぜなら、「やり切った」という感覚は、それだけで自信を与えてくれるからです。すべての行動を「やり切った」うえで、それでもうまくいかないのならば、「それはもうしょうがない」と開き直ることができます。たとえ、うまくいかなかったとしても、「やり切った」ことについては自分を認めてあげることができる。これが、深いところで、自分を支えてくれる「自信」になるのです。
こうして、僕は、期せずして、「心が決まる」準備をしていたように思います。
たしかに、「心が決まる」きっかけは、同僚の「8月7日ってドライデンの誕生日なんです。これって、金沢さんがドライデンを取る暗示なんと違いますか?」という言葉でした。しかし、僕が、軽井沢で必死になって“車内テレアポ”をしていなければ、同僚の言葉は僕を素通りしていたように思うのです(詳しくは、『超★営業思考』に書いてありますので、ぜひお読みください)。