紀元前からの長い花粉症の歴史において、日本は新興国であるが、近年は日本以外でも花粉症に悩む国は増加しているという。

「インドネシアでは観光客用に整備されたゴルフ場が多くありますが、その際に植えられたバミューダグラス(ギョウギシバ)の花粉症患者が増えています。さらに、中東では砂漠緑化に使用するプロソピスによる花粉症患者も多いです。海外から持ち込まれた植物や同じ植物が密集しすぎている環境の増加、またファストフードなどによる食生活の変化も花粉症の発症に影響すると言われています」

 各国で花粉症の対策は行われているが、効果的なものはいまだにない。日本もその例に漏れず、小塩氏を含めて研究者たちが試行錯誤を繰り返している。

「まず林業従事者が激減しているので、杉を切りたくても切れません。無花粉杉に植え替える作業も進められていますが、成長するまでに長いスパンがかかり、花粉ができないので苗を増やすのも簡単ではないのです。私が開発した農薬で雄花だけを枯らす散布実験も、浜松で行われていますが、まだまだ改良が必要です。また、花粉を根絶できたとしても、環境の変化で新たな問題が起こりかねません。したがって、花粉症の症状を軽減しながら、花粉と共存していく方法も考えるべきでしょう」

 さらに小塩氏は花粉症対策への国の本気度に疑問を呈す。

「そもそも日本には林業分野の研究者が少ないのです。博士号を取得して研究職に就くには論文数が重要ですが、樹木の成長は長い時間かかるので、一晩で大量増殖するようなウイルス分野などと比べて成果を上げにくいのが実情です。研究者を育てるならば画一的な評価制度ではなく、国が意図的に人材を育てないといけません。これは花粉症分野だけの問題ではなく、自然環境を守ることにもつながるのです」

 いずれにせよ、人類は2000年以上前から我々と同じく花粉症の苦しみを味わい続けてきた。その歴史に思いをはせれば、憎き花粉ではあるが、少しは愛おしく感じられる、かもしれない。