「あの時、ああすれば良かった」と
後悔のないように

――チーム連携で、様々な治療の選択肢を吟味して頂いていることが伝わりました。

B教授 当院では感染対策チーム・呼吸器内科・外来主治医が一体になって患者さんの治療に取り組んでおります。治療法は厚労省から発表されるものも随時更新されますし、WHOを含めた各地域でのガイドラインはこの1年で度々変わっています。

 主だった欧米の論文を読み、治療の参考にしていました。しかし論文やガイドラインも対象患者が違うため、実際に目の前にしている患者さんに適応すべきかチームで議論をしておりました。

――母が重症化する可能性は高かったのでしょうか。

B教授 特にお母さまは症状の軽快と増悪があり、また検査所見と症状が一致していなかったため診療は難しいものでありました。患者さんの背景によって違うかと思いますが、コロナ感染症には常に重症化するというリスクが伴っていると思います。

 特に最後の1週間の治療方針の決定には、この肺の状態はまだ重症化リスクがあるという慎重論、退院基準を十分満たしている、という相反する考えがありました。

 肺の画像やCRP値は数日遅れて出てくることもありますし、他の回復の指針となる指標も、必ずしも一定の方向に向かう事もなかったので、出来るだけ“より安全な方向で”と考えておりました。

――慎重論・安全策の結果、肺の影が薄く、範囲も狭くなり、炎症反応値CPRも改善したときはとても安堵しました。後遺症もないといいのですが…。

B教授 入院が長期化することによるメンタルの悪化や筋力の低下、いわゆるフレイル・サルコペニアの問題もありました。退院後も後遺症なのか、初期段階の病態が遷延しているのかなど、わからないことが多くあると思います。

「あの時ああすれば良かった」ということのないように、退院後の体調悪化リスクの軽減、安全、安心を最優先にしました。それでも重症化することがあるのです。お母さまは3週間以上のフルな治療によく耐えられました。血中酸素濃度があまり下がらずに耐えられたので、最終的には重症化せずにゆっくりと回復されていきました。

 日本でのデータは今後多く出てくるとは思いますが、先行しているイギリスの論文では、コロナ回復者全体の3人に1人が再入院し、そのうち8人に1人が死亡したというデータもあります。退院後もどうぞ、ご無理なさらないようお気を付け下さい。