時代や環境変化の荒波を乗り越え、永続する強い会社を築くためには、どうすればいいのか? 会社を良くするのも、ダメにするのも、それは経営トップのあり方にかかっている――。
前著『戦略参謀の仕事』で経営トップへの登竜門として参謀役になることを説いた事業再生請負人が、初めて経営トップに向けて書いた骨太の経営論『経営トップの仕事』がダイヤモンド社から発売。好評につき発売6日で大増刷が決定! 日本経済新聞の書評欄(3月27日付)でも紹介され大反響! 本連載では、同書の中から抜粋して、そのエッセンスをわかりやすくお届けします。好評連載のバックナンバーはこちらからどうぞ。
事業の成功と失敗には、必ずその因果、理由がある
一つの事業に成功した経営者といえども、その勢いで他の新規事業や新しい市場に乗り出していって、うまくいかないケースを見かけることがあります。
事業が成功すると自社の事業内で金が廻るようになり、金融機関からの信用力も得て、借り入れはしやすくなり、かつ外部からの人材を調達することも容易になるため、経営者にとっては、新たなるチャレンジが行いやすい環境が整います。
これらの有形の「果実」も手にし、実績に基づく無形の「自信」も得られます。それ自体はとても良いのですが、戦略のPDCAにおける、肝心の「事業が成功した理由」を冷静に捉えずに放置すると、「自分がやるのだから成功する」という一種「神がかり」に近い、調子に乗った状態になってしまうことがあり、とても危険です。
事業が成功するにも失敗するにも、必ずその因果、理由があります。
競合がひしめき合っていて、一見、レッドオーシャンに見える市場でも、実はお客さんが潜在的に「もっと、こうだったら良いのに」と思っていることがあり、まだ具現化されていないブルーオーシャン状態のニーズが潜んでいるものです。
たとえばニトリの勝因は、問屋を介さずに自らものづくりまで行うことにより、他社よりも大きな利幅を確保したうえで、低価格帯での商品提供を可能にしたことです。
それまでメーカーと問屋からの仕入れに頼っていた家具の小売業界では、自ら製造にまで踏み込むのは難易度が高すぎ、在庫を抱えなければならない問題も大きいと考えられていました。
しかし、ニトリは「直接、工場にまで出向いてものを作り、作った分は全数引き取る」という方針を取りました。これは既存の企業が捉えていなかったものの、実は、家具メーカー、問屋が在庫を抱えるために原価にのせていた大きな粗利を、自らリスクをとることによって粗利益幅という事業の自由度を手にした成功事例と言えます。
これにより、たとえ事業において少々の失敗があったとしても、気にせずに実験を続けられる収益性の高さを手にできたのです。
道なき道を切り開きながら進み、あがいた経験を持つ方は、先を見通す能力を培っていることがあります。