労働法の新常識#3
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会社を倒産危機に追い込む、多額の未払い残業代請求が増えている。特に時間外労働の多い運送業や飲食業などの業種は、「それに見合った歩合給を支払っているから大丈夫」だと高をくくっていたら大変なことになる。特集『社長が知るべき!労働法の新常識』(全5回)の#3では、『社長は労働法をこう使え!』(ダイヤモンド社)の著者である向井蘭弁護士への取材を基に、経営者は具体的にどういった方法を取れば、未払い残業代請求による危機を脱することができるか、徹底解説する。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)

未払い残業代申請で続々倒産!
時間外労働の多い業種は対策急務

 従業員が会社に対し、未払い残業代を請求するケースが水面下で増えている。「水面下で」というのは、労働基準監督署に相談に行ったり裁判を起こしたりするわけではないので、公的な統計には出てこないのだ。しかし実は、訴訟になる前に弁護士同士で和解して終わっているだけで、向井蘭弁護士によれば「確実に増えている」のだという。

 残業代が支払われないケースは大きく分けて2種類ある。一つは、残業代をあえて支払わなかったブラック企業であるケース。そしてもう一つは、“支払っているつもりが、法律に違反していた”ケースだ。

 向井氏いわく「未払い残業代請求を受けて倒産した企業は、私が担当しただけでも10社は超え、そのほとんどが“支払っているつもり”の会社だった」と述べる。

 残業代未払いとなってしまう会社の経営者が皆、労働者にただ働きを強いる極悪非道なリーダーなわけではない。従業員との合意の下残業代を支払っていたのに、実はそれが法律的にはNGであり、社員とのトラブルで発覚しただけなのである。

 特にこのようなケースで未払い残業代請求が多い職種は、運送業におけるトラック運転手や、飲食業における店長、医療業における医師などだ。

 上記のような職種では、必然的に時間外労働が多くなるため、会社が単純に時給換算して賃金を支払おうとすると赤字になってしまう。そこで、一定時間の残業代を給料に組み込んで支払う方法、いわゆる定額残業代制度を取っていることが多い。

 さらに本特集#2『残業代の未払い請求で「2年後に倒産」も!?経営者が絶対知っておくべき重要判例3選ぶ』で解説した通り、賃金債権の消滅期間も、2年から3年に延長された。つまり、今から2年後である2023年4月以降に未払い残業代を請求されてしまったら、何も対策をしていなかった会社は、3年分の未払い残業代を支払うことになる。場合によっては1人当たり300万~600万円相当を支払わなければならず、複数人に請求されれば一気に倒産の危機に陥るだろう。

 では、定額残業代制度の仕組みを変えないと、どのような危機に陥るのか。そして、具体的にどのような方法を取れば、未払い残業代請求の脅威から逃れられるのか。次ページからはその方法を具体的に紹介していく。