本当は怖い働き方改革#8
Illustration by Saekichi Kojima, Photo:Colors Hunter-Chasseur de Couleurs/gettyimages

正社員と非正社員の不合理な待遇差を禁止する「同一労働同一賃金」が4月に施行された。企業がまず備えるべきなのは、非正社員から待遇差について説明を求められたときの対応だ。説明ができなければ、行政に企業名を公表されかねない。特集『本当は怖い働き方改革』(全9回)の#8では、目からうろこが落ちる同一労働同一賃金マニュアルをお届けする。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)

大物弁護士が企業に進言
待遇差是正は「時期尚早」

 正社員と非正社員の不合理な待遇差を禁止する「同一労働同一賃金」を導入するための改正法が4月に施行された。大企業はこの4月から、中小企業は2021年4月から適用される。

 労働問題を扱う使用者(企業)側弁護士の大物、石嵜・山中総合法律事務所の石嵜信憲代表弁護士は、同一労働同一賃金にどう対応すべきか相談に駆け込んでくる経営者や人事労務担当者に、手当などの待遇制度を変更するのは「時期尚早である」と制する。 そして同一労働同一賃金のインパクトを新幹線の距離になぞらえた。

「新幹線は4月に東京から出発するが、新横浜でいったん止まるだろう。そうであれば、乗り遅れたって構わない。普通列車でも追い付ける。数年かけて判例が蓄積されて、おおむねの判断基準が明確になった段階で、再出発する新幹線に新横浜から乗り込めばいい」

 同一労働同一賃金は、働き方改革関連法における最大の目玉である。正社員と非正社員の不合理な待遇差が禁じられ、訴訟を起こされて「不合理」と判断されれば「違法」と言い渡されることになる。

 にもかかわらず、「安易に待遇格差を『不合理』として是正しない」ことを石嵜弁護士は是とする。国が作成した指針(ガイドライン)に沿って企業が、社内待遇制度が不合理か否かを判断しようと骨を折っているのに対し、「ガイドラインは『不合理』判断の羅針盤とはならない」とも断言する。

 世に同一労働同一賃金の対策本などがあふれ、それらはガイドラインの内容をベースにしたものが多い。そうした雰囲気の中で、法律順守を徹底したい企業には、石嵜弁護士の弁は暴論のようにも聞こえる。しかし、労働問題や法律の解釈に通じた専門家ほど、“石嵜節”に驚かないどころか、うなずいてみせるのだ。

 石嵜節を聞いて拍子抜けしたり、胸をなで下ろしたりするかもしれないが、改正法施行に伴って企業が目下、最も避けなくてはいけないことがあると石嵜弁護士は指摘する。待遇の相違に関する「説明義務」に違反することだ。

 新たに雇用する非正社員に対して、あるいは労働者から求められたときに、待遇格差の内容とその理由を説明することが義務付けられた。これを果たさずに違反すると、労働行政に指導を受けたり、企業名を公表されたりする恐れがある。また、この義務を果たしていないことを糸口にして他のことにまで行政の指導が及ぶかもしれない。待遇格差を巡る裁判を起こされたときには、説明義務を果たしていなかったことが不利に働く場合もあるのだ。