収入でいえば、全国民に一律10万円の特別定額給付金が支給された。「実収入額」の欄で増えた金額の4割ぐらいはこの影響だろう。

 さらに支出についてもコロナ禍による外出自粛や外での飲食、旅行が減ったことが消費を押し下げたことは間違いない。特に高齢世帯であれば感染リスクを恐れて余計に外出を控えただろう。支出が年間で14万円ぐらいは減っているのもうなずける。

 したがって、不足額が55万円というのが今後も当てはまるということはあり得ない。要は、こうした数字のデータを見て単純に“いくら不足だ!”と決めつけること自体が全くナンセンスなのである。

 以前にも述べたが、2019年に話題になったときも金融庁の報告書の中には「高齢夫婦無職世帯の平均純貯蓄額」が2484万円ある、と記載されている。つまり2000万円足りないのではなくて、既に2500万円の貯蓄を持っているからそれに合わせた使い方をしているだけのことだ。毎月5万4000円あまりも支出超過で30年暮らしたとしてもまだ余裕があるという話なのである。したがって、そもそも「2000万円問題」などというものは存在していないのだ。

 さらにこのデータそのものはあくまでも平均値であるから、実際の収支というのはそれぞれの家庭によって全く異なるのは当然だ。筆者は現在69歳で妻と二人暮らしだが、日常生活だけであれば、公的年金の支給額に相当する金額でほぼ賄える。ただし、旅行や趣味に使うということになるとそれだけではやはり厳しい。これも人によって異なるだろう。一口に趣味といってもほとんどお金のかからないものもあれば、海外旅行などの場合は一度に何十万円も使うことになる。自分がしたいと思うライフスタイルに合わせて資金を準備しておくのはある意味当然といっていいだろう。