投資すべきは「構造的に強靭な企業」
土井 僕は『教養としての投資』と『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』の2冊とも読ませていただいて、「構造的に強靭な企業®」というコンセプトが本当にすごいなと思った。だいたいこの手の本は、単発の打ち手の話とか短期で終わっちゃうような競争優位性の話とかが多い中で、この本は「構造的に強靭な企業®」について書かれている。「高い付加価値」と「高い参入障壁」と「長期潮流」の3つを持っているのが「構造的に強靭な企業®」だなんて、これはすごい目線だなと思いました。どうやってここにたどり着いたんですか。
奥野 長期で企業を保有しよう、長期で企業のオーナーになろうと考えたときに、定性的に考えたらやっぱりそれしかないということで「3つの基準」にたどり着いたんです。そのころから「高い付加価値」「高い参入障壁」「長期的な潮流」という3つの基準は全く変わっていないですね。2007年からずっと14年間、それだけを追い求めて、企業の分析をして、企業に投資をして、失敗もしながらここまで来ています。極めて普通の考え方だと思うんですけどね。孫子じゃないですけど、勝者には勝つ理由がある。誰かが優秀だったからとか、ヒット商品があったからとか、そういう偶発的なことではないだろうと考えています。
土井 なるほど。NVIC(農林中金バリューインベストメンツ)で毎月出されているレポートを見たんですけど、香料メーカーの話が書いてあって、それってなかなか簡単にできるものじゃないから参入障壁が高いんだということが書かれていたのがすごい印象的でした。毎回あんな感じでレポートを出していらっしゃるんですか。
奥野 最終的なオーナーである受益者の方、それはプロの投資家であろうと個人の投資家であろうと、NVICなり僕なりのレンズを通して投資先会社のオーナーになっているわけです。ナイキとアディダスは、どっちがどういうふうに強いのかをちゃんと説明するのは、金融仲介業である僕たちの当然の使命だと思っています。誰もそこまで求めていないのかもしれないけど(笑)。
土井 いえいえ。
奥野 毎月、非常に長いレポートをつくっています。あとは毎月Zoomで、受益者の人たちと対話する「おおぶねメンバーズカンファレンス」もやっています。
土井 なるほど。今まであの手のレポートはあんまり真面目に読んだことなかったんですけど、すごい読み応えがあるなと思いました。もうあれ自体が教科書みたいなもので、すごい勉強になると思うんですよね。奥野さん自身は、どうやって会計とか財務分析だとかの勉強をされたんですか。
奥野 それはもう銀行員の基本ですから。
土井 あー、そっか。でもですよ、銀行員がみんなそれを勉強したんだったら、みんな金儲けうまいはずだけど、僕が見ている限り絶対そうじゃないですよね。
奥野 そうですね(笑)。結局ですね、生きた数字の分析になっているかどうかだと思います。一番効率良くその手の理論的な勉強をしようとすれば、多分証券アナリストの一次試験ぐらいのレベルでいい。あれって財務分析と証券分析と、あと経済、この3つの教科から成り立ってます。本当の基本の部分ですね。そういった基礎を学んだうえで、実際に業務を行う中で、理論と現実、定性と定量、抽象と具体をちゃんと行き来することによって、将来にも再現するであろう仮説を導くことが大切。投資は、将来をどういうふうに見立てるかっていう話だからです。過去と将来を結びつける「仮説」を論理的に構築できるかどうか。「構造的に強靭な企業®」というのは、過去を分析する中で得られた見立てや仮説が正しければ、将来にも定量的な部分が再現すると思える会社なんです。財務分析は所詮過去の分析ですからね。単純に過去の分析をしましたでとどまっていると、普通の銀行員みたいになっちゃうんだろうなと思いますね。
1974年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒。在学中にギリシア留学。日経ホーム出版社(現・日経BP社)を経て、2000年にオンライン書店アマゾンの日本サイト立ち上げに参画。売れる本をいち早く見つける目利きと、斬新な販売手法で数々のべストセラーを仕掛け、「アマゾンのカリスマバイヤー」と呼ばれる。2001年、同社のカンパニーアワードを受賞。2004年有限会社エリエス・ブック・コンサルティングを設立。数多くの著者のブランディング、プロデュースを手掛け、著者の強み(USP)の発見からブランド構築、出版戦略、マーケティングまでをトータルで行う業界屈指のプロフェッショナル。また、日本を代表するビジネス書評家として自らのメールマガジン「ビジネスブックマラソン」は2004年7月に発行開始以来、5700号を突破。読者数5万6000人を超えるメディアに成長した。著書に『「伝説の社員」になれ!』『20代で人生の年収は9割決まる』『エグゼクティブ・ダイエット』など
参考記事
利益を出さない超優良企業とは?