「お金持ちになるにはどうしたらいいのか」という疑問にこの連載ではいろんな角度から答えを示していきます。お金持ちなら誰でも知っている秘密を明かしていきます。
その疑問の答えにたどり着くには「お金」「経済」「投資」「複利」、そして「価値」について知っておく必要があります。少し難しい話も出てきますが、今は完全にわからなくても大丈夫です。
資本主義の仕組みについても、詳しく解説していきます。なぜなら、資本主義の世界では、資本主義をよく知っている人が勝つに決まっているからです。
今後の答えのない時代において、どのように考えながら生きていけばいいのか、ということもお話ししていきたいと思います。さあ、始めましょう!
(もっと詳しく知りたい人は、3月9日発売の『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)を読んでください)

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アマゾンの恐るべき価格戦略

価値の複利効果で雪だるま式に成長している企業の一例を見ていきたいと思います。

アマゾンは、最近になってようやく利益を出すようになりました。ですから配当なんて当然出していません。これまで利益を出せなかったのではなく、出さなかったのです。実はいつでも利益を出せる状態になってはいたのですが、競争優位を強めるため、参入障壁を築くためにどんどん投資することを優先し、利益を出すことをあえて先延ばしにしてきたのです。

たとえばアマゾンプライムというサービスがあります。皆さんの中にも実際に利用している人もいると思います。会費が月額いくらか知っていますか?

日本のサービスだと年会費で4900円か、月額500円のいずれかになります(2021年2月現在)。そしてプライム会員になると、アマゾンで買い物した際の送料が無料になり、さまざまな映画やテレビドラマが見放題になります。また、プライムミュージックで音楽を聴けたり、一部の電子書籍が無料で読めたりします。

月に1回買い物をして、映画の1本も視れば、あっという間に「元が取れた」という感覚になると思います。元が取れる、ということは、アマゾンから見ると利益にならないということです。

実は、日本で年4900円のサービスですが、米国だと年1万円以上になります。もしアマゾンが日本で利益を出そうと思ったら、アマゾンプライムの会費を、現在の4900円から6000円、8000円、1万円というようにだんだん引き上げていけば良いのです。実際にある時点からはいつでも会費を上げることは可能だったのでしょうが、未だに会費を戦略的に安く抑え、競争優位を築くための価格戦略を優先しています。

こうすることで他のEC(電子商取引)企業との戦いを有利に進めています。そして同時に、今やリアル店舗でモノを売っている小売店も、どんどんアマゾンにお客さんを奪われています。ひょっとしたら数年後には、大半の小売店はアマゾンによって潰されてしまうかもしれません。

プライムサービスの価格は、競争相手を十分に弱らせて、もしくは潰してしまってから、ゆっくりと上げていけば良いのです。

もちろん、そうなれば、会費が高くなったから退会しますという人も出てくると思います。でも習慣というのは怖いもので、アマゾンプライムでたくさんの映像コンテンツや音楽配信サービスを利用しまくった人たちは、恐らく大半が止められないと思うのです。その時、競争相手は十分に弱ってしまっているので、選択肢は限られているでしょう。

用意周到な長期戦略です。恐ろしさすら感じます。アマゾンの世界の売上高は2019年12月期決算で2805億ドルでした。日本円にして約31兆円です。これだけの売上規模を持ちながら、アマゾンはつい最近まで利益を全く出さなかったのです。

さまざまな投資を積極的に行うことによって、それらを費用として計上し、法人税が課税されないようにしてきました。それは別に法人税を支払うのが惜しいのではなく、アマゾンと同じようなビジネスモデルを持った新しい企業が出てきたとしても、「絶対、アマゾンには敵わない」と思わせる圧倒的な差を築くための投資戦略なのです。これがいわゆる「参入障壁」です。こういう企業は配当などしているヒマはないのです。

こういった企業の企業価値は長期的に成長を続けます。一時的な浮き沈みはあるかもしれませんが、長い目で見れば、「価値の複利効果」という強力なエンジンをフルスロットルで噴かせて、驚くほどの劇的な成長を遂げるのです。

私たちはこういう会社を探し出して投資することを仕事にしています。投資というのは一時的な結果ではなく、長いスパンで育てていくものだからです。

「時間」は投資の上で重要な武器になります。素晴らしい企業の企業価値は時間をかけて、複利効果を味方につけて累積的に膨れ上がります。こういった素晴らしい企業であっても、その株価は株式相場変動の影響を中短期的には受けますが、長期的には累積的に増大する企業価値を追いかけて上昇します。

だから皆さんには、できるだけ若いうちからこういった企業への長期投資を始めてほしいのです。人生が大きく変わってくることは間違いありません。

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奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『教養としての投資『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(ダイヤモンド社)など。