医療機関や医療従事者への深刻な影響は本当にあるのか?

 もうひとつ、強硬に東京五輪中止を求める人たちの反対理由は、「医療体制の崩壊」だろう。それでなくても逼迫した医療体制、疲弊した医療従事者に対して、これ以上の負担をかけるべきではない。「わかっているのか!」「オリンピックだなんて、何を考えているんだ。命の方が大事だろ!」という主張だ。

 しかし、この論理も相当エキセントリックで、反対のために誇張されすぎていないだろうか。

 日本の医療関係者全員がコロナの医療に関わっているわけではない。医療関係者に取材すると、「コロナの医療に影響を与えることなく、東京五輪が必要とする医療チームに協力できる医師、看護師は確保できるはずです」という。

 それなのになぜ、つい最近になって組織委員会は「看護師500人、スポーツドクター200人」を追加募集したのだろうか。それがまた批判を浴び、反対する人の不安をあおる形になったのは否めない。この点を組織委員会に尋ねると、次の回答を得た。

 「大会時の医療体制については、延期前に一旦確保の目途が立っておりましたが新型コロナウイルスの影響により地域医療の状況が大きく変わったことを受けて、丁寧に対応させていただいております。

 そのため、今年夏の大会で活動いただく医療スタッフについて、大会期間中を通じて、一人当たり5日の参画を前提としてトータルで1万人程度の協力を予定していたところですが、現下の医療情勢から、予定人数を集めることは厳しい状況にあり、看護協会および日本スポーツ協会にご相談させていただいたところです」

 この動きにも非難や「集まるわけがない」といった悲観論が多かったが、5月12日、『すでに約280人の応募があった』と報じられた。

 また、医師や看護師という重要な役目が「ボランティア」という待遇に驚きを隠せなかったが、それには次のような事情があった。これも組織委員会からの回答だ。

 「ロンドン大会や、リオ大会では、大会ボランティアとして応募する医師・看護師などが多かったと聞いていますが、東京大会においては、延期前の段階で医療機関や医師会等に、組織委員会より事前に大会時の医療スタッフの派遣にご協力いただけるかどうかをご相談させていただいており、多くの医療機関等から大会運営にご協力いただけるとの申し出をいただいていたことから、各会場の医療統括責任者および選手用医療統括責任者以外の方については無償で活動いただく予定としておりました。

 なお、現下の厳しい地域医療の状況を鑑み、参画いただく医療スタッフが所属する医療機関や大会指定病院等へ協力金を支払う予定としています」

 考えてみれば、ボランティアとはいえ、病院や医療機関に所属している医師や看護師ならいわば「出向」の扱いだから、まったく無償というわけではないのだろう。