日本の高度経済成長は
「人口ボーナス」によるものだった

 第2次世界大戦後に東アジア諸国が「奇跡」とも呼べるような経済発展を遂げた現象は、この人口ボーナス期の考え方で説明できるという。日本を例に取ると、1950年代は子どもの人口が多く、それに比べて労働力人口が少なかったため、経済はあまり発展しなかった。

 ところが、その子どもたちが成長して労働力となる1960年代からは、安価な労働力を武器に世界中から仕事を受け、経済的に大きく成長した。この時期を日本では「高度経済成長期」と呼ぶが、そうなった理由は若くて安価な労働力を大量に抱えていたから、と説明できる。この時期の労働者が特に他の世代よりも頑張って働いたからというわけではないのだ。

日本の人口ボーナス期と人口オーナス期ある社会の生産年齢比率が高くなり、人口構造が経済にプラスになる時期を「人口ボーナス期」と呼ぶ。日本が人口ボーナス期だったのは1960~1990年代半ばごろ。90年代以降の日本は「人口オーナス期」に入っている(出典:ワーク・ライフバランス)
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 日本の人口ボーナス期は1990年代半ばで終わり、その後は労働人口の減少と高齢者人口の増加が始まり、今に至っている。これは、高度成長期に豊かになった労働者が、子どもの教育に投資し、続く世代の高学歴化が進むからだ。高学歴化した世代の人件費は上昇し、高学歴化によって結婚年齢が後ろ倒しになるため、生涯に持てる子どもの数が少なくなり、少子化が進むというわけだ。

 こうなると労働者にとって、高齢者や子どもを支える社会福祉への支出が重荷となってくる。人口ボーナス期が終わり、「人口オーナス期」を迎えたということだ。そして、人口ボーナス期は一度やってきて過ぎ去ると、二度とやって来ない。つまり、人口オーナス期に移行したら、いち早くそれに合わせた戦略を立てないと、経済成長は難しいということだ。

ボーナスは1度きり
人口オーナス期への対応を急げ

 オーナス(onus)という言葉には「重荷」や「負担」という意味がある。人口オーナス期は、人口構成が経済成長の重荷となる時期、言い換えると労働力人口よりも、高齢者など福祉で支えられる人口が多くなる時期だ。こうなってしまうと、若くて安価かつ大量の労働力にものをいわせて、世界中から大量の仕事を受けるという成長戦略は当然通用しなくなる。

 日本はすでに人口オーナス期に突入しているが、日本より先に人口オーナス期に入ったのがヨーロッパ諸国だ。しかし小室氏は、先に人口オーナス期に突入したヨーロッパ諸国よりも日本のほうが状況は深刻だと話す。ヨーロッパ諸国は緩やかに人口オーナス期に入っていったため、それなりの準備もできたが、日本は高齢者の増加に対して出生率がかなり低い水準で推移し、少子化が進んだ。その結果、人口全体のうち、高齢者が占める割合が急激に増加し、人口オーナス期への突入も急激になってしまったと小室氏は指摘する。