少子高齢化社会の日本が
経済成長するための2つの条件

 人口オーナス期に入ってしまった日本は、もはや経済成長の余地はないとあきらめるしかないのだろうか? 小室氏は「人口オーナス期に入ってからの経済成長が、本当の経済成長。そしてそれを達成するには2つの条件がある」と指摘する。

 1つ目は、労働力人口、言い換えると生産年齢人口を最大限使い切ること。そして小室氏は日本にはこの点で非常に大きな伸びしろがあると訴える。その伸びしろとは女性だ。日本の企業社会は女性をほとんど活用できていないのが現状だ。女性が働ける環境を作ることで、労働力人口は急増する。障がい者や親の介護を抱えている人たちが働けるように環境を整えれば、労働力人口はさらに伸びる。この対策は現時点で必要な労働力を確保するためのものと言える。

 2つ目は、未来の労働力を確保すること。少子化対策を徹底し、共働きの夫婦2人が(希望すれば)2人以上の子どもを持てるような社会を作ることが必要だと小室氏は強調する。そしてその第一歩が長時間労働の是正だという。この点は厚生労働省の調査からも明らかになっており、1人目の子どもが産まれたときに、夫が家事や育児に協力する時間が長ければ長いほど2人目以降が産まれる確率が高いという。社会全体が働き方を変え、家事や育児を夫婦が共に担うことができる社会をつくる。特に男性の働き方改革をすることが少子化を解決する鍵となる上、女性が働きやすい社会を作ることにもつながるのだ。

一人目が生まれたときに夫が家事・育児に参画せず妻に任せきりにすると、第2子の出生率が大きく下がる一人目が生まれたときに夫が家事・育児に参画せず妻に任せきりにすると、第2子の出生率が大きく下がる。孤独な育児が妻のトラウマになるためだ(出典:ワーク・ライフバランス)
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 このように人口オーナス期には、現在の労働力を最大に確保しながら、未来の労働力を確保することが重要な政策課題になる。そして人口オーナス期に、人口ボーナス期の政策や企業戦略を漫然と継続すると逆効果となり、成長率の下落あるいはマイナス成長という事態も招きかねないと小室氏は警告する。

人口オーナス期の働き方とは

 ここで小室氏は人口ボーナス期の働き方と人口オーナス期の働き方を示した。人口ボーナス期には、労働力が余っていて、かつ力仕事が多いためなるべく男性ばかりが働き、家事労働は妻が無償労働で支えると、社会全体が高効率だった。お客さまにはまだ商品やサービスが行き渡っておらず、人件費は安いため、長時間働いて、いち早くたくさん納品した企業が勝つ仕組みだった。さらに、均一なものを市場に大量に供給することが求められていたため、軍隊のように「右向け、右」で動く、なるべく同じ条件の労働者を揃えた方がよい。過去の日本がやってきたのは、まさにこの働き方である。

 しかし人口オーナス期に突入した日本で、こうした従来の働き方を続けても、今後経済発展に貢献することはない、と小室氏は指摘する。人口オーナス期には、頭脳労働が多くなり、なおかつ労働力が足りなくなりがちなので、なるべく男女ともに働いた方がよい。さらに、時間当たりの給与が高くなり、ミスなく質の高い仕事を求められると、高い集中力を要するようになり、睡眠時間が鍵となる。生産性を上げるためには、なるべく短時間で仕事を終え、戦略的に睡眠を取ることが重要になるのだ。