「左遷らしき異動」で社員のやる気を落とさないために人事がすべきことPhoto:PIXTA

企業ではさまざまな意図で人材の配置転換が行われる。しかし、「人事の意図」が伝わらず、異動を告げられた社員が不満や不信感を募らせるケースもある。ネガティブに取られかねない人事異動を実施する際、経営層や人事担当者はどのようなことに気を付けるべきなのか。ケース別に解説していく。(フォー・ノーツ代表取締役 西尾 太)

前向きな異動なのに左遷と認識…
「悲しい誤解」はなぜ起こるのか?

 毎年4月になると、「不本意な人事異動を命じられた。退職しようか迷っている」といったご相談をいただくことが多くなります。社内相談窓口に、「不当な異動命令だ」という申し立てがあったと、人事部門からご相談いただくこともあります。

 今回は「左遷」がテーマなわけですが、左遷は「人事異動」の目的の一つです。

 ただ、その異動が左遷なのかそうでないのかについては、慎重に見極めた方がよいでしょう。異動した本人が左遷だと思っていても、会社にそのつもりがないケースもあります。それは不幸なことですね。

 私は、人事課長時代、社内の人事異動の担当もしていました。人事異動の担当とは、異動の起案・調整を行い、経営に決定してもらう仕事です。経営や管理職の要望、本人の希望などの情報により、「この人はここに行ってもらった方がよいのではないか」「こちらの方が活躍できるのではないか」「この人にこの職務は難しかったようだから、別の場所で働いてもらった方がよいのではないか」などの仮説を立て案を作り、人事権者(役員や本部長クラス)を回って調整していました。

 その経験から言わせていただくと、明らかに左遷といえるケースは、そう多くはありません。要するに、命じられた本人が左遷だと認識している人事異動の多くは、実際のところ左遷ではないということ。前向きな異動なのにそれを本人が「左遷だ!」と思ってしまうことは、会社としても人事担当者としても、不本意なことです。

 本稿では、左遷ではない異動なのにいたずらに社員のやる気をそいでしまうケースとそのときの企業側の問題点、そして左遷と思える異動を命じられた社員本人が何を考えるべきかについて整理していきたいと思います。