極意3:複雑な事象をシンプル化せよ。
星:コンセプトメイキングにおいて他に気をつけていることはありますか?
塚田:世の中全体が非常に複雑化していますが、複雑なものを「要はこういうことだよね」と誰でもわかるようにシンプル化、抽象化することです。
自分の中でこの能力が高まってきたきっかけは、大人になってから留学して、もう一度英語と向き合ったことでした。
母国語である日本語と違い、英語だと言い回しでごまかせないので、「私はこう思う。なぜならこうこう……」という具合に、ストラクチャーを大事にした話し方、書き方にならざるをえないのですが、こうしたスタイルは非常に伝わりやすいんですね。
星:そのシンプル化を商品開発にどう活かされたのですか。
塚田:リアルなお客様の行動やインサイトをベースに、複雑な事象を抽象化し、開発チームの中で共通言語化していくことが大切です。
それがコンセプトをつくっていく過程そのものでもあります。
ゴールは、「誰に向けた、どんな商品で、どうやって競合他社の商品に勝つのか」を定義することです。
星:シンプル化して共通言語化する話は非常に納得です。
私のやってきた学術系の世界でも同じです。
学術系の世界って、どんなに難解で複雑なものでも、結局は自分の理論が正しいかどうかに成功が左右されるように思われがちですが、それは大きな勘違いだと思います。
スタンフォードには、ある研究分野を築いた人や、世界的権威がたくさんいます。
そういう人たちは天才肌で、研究ばかりしていて、まともに他人と会話できない。なんて思ったら大間違い。
その、正反対だと思います。
ほとんどの人が話もわかりやすいし、非常にシンプルな言葉で話してくれる。
これはどうしてか考えてみると、新しい分野を築く人って、まだ誰にも知られていないことをみんなにわかってもらい、資金を集め、学術的に大きく盛り上げてきた人たちなので、シンプルな伝え方が上手な人ばかりなんです。
極意4:ロジックでコンセプトを発見せよ。
星:これまで手がけた商品の中から、どのようにしてコンセプトにたどりついたか、実例があればお話しいただけませんか。
塚田:サントリー時代に手がけたトクホ(特定保健用食品)の「伊右衛門 特茶」の場合、ロジックでコンセプトを絞り込んでいきました。
それまでもトクホのお茶はあったんですが、食べすぎたりお酒を飲みすぎたりした翌日に飲んで、「やっちゃった」をチャラにするような位置づけでした。
サイズは小さく、値段は高く、味は苦い。「良薬は口に苦し」的ポジションで、そこにマーケットができていました。
しかし、お客様に聞いてみると、トクホのお茶は少量なので、みんないつものお茶とトクホのお茶と2本買っているのが実態でした。
星:それは確かにちょっと無駄遣い感もありますね。
塚田:そこで、「いつも飲むおいしいお茶をトクホに変えちゃえば、お客様も喜ぶのでは?」と考えました。
いつものお茶一本で体脂肪対策もしてくれて、しかもおいしいとなれば、2本買うより低い価格設定にしておけば、1本で少し高めの価格でも、十分お得感があるという論理です。
私たちはここで勝負しようと考えました。
このようなロジックで、すでにヒットしていた「伊右衛門」ブランドの上に乗っかっていったのが「伊右衛門 特茶」です。まあ、これは、大企業ならではの戦い方ですけどね。
星:いろいろな着眼点を持ったうえで、シンプル化し、ロジックで新コンセプトにたどりついたわけですね。
何かご自身の失敗談や、これから商品開発をする方に向けてのアドバイスはありますか。
塚田:そうですね。若い頃は、コンセプト「メイキング」ありきの部分があったかもしれません。本当はお客様の中にヒントがあるのに、そこを見ないで、「こうあるべきだ」と独りよがりのコンセプトを提示してしまうような。メーカー側の思いが強すぎるのはよくないですね。
星:これでお話が全部つながった感じがしますね。
最初から塚田さんがおっしゃっていたように、「コンセプトメイキング」というより「コンセプトディスカバリー」。「つくる」ことに走りすぎず、ちゃんと「見る」ことが大事なんですね。着「眼」点だけに。