極意2:当たり前を疑え。

星:私と塚田さんは東大という学び舎が一緒だったので、塚田先輩と呼ばなくてはいけませんね。

私は、東大在学中に理系から文学部に移って哲学を学びましたが、塚田さんも理系から経済学部というわけで、文転同士ですね。

哲学とは、まさに、物事の前提を洗い出して問い直し、そこから新しい着眼点や立場をつくっていく営みです。

着眼点を変えるのに、塚田さんが意識しているアプローチはありますか?

塚田:「Cuzen Matcha」を開発するとき、一つ大きな発見というか、前提を変えてみたのは「抹茶は本当に粉じゃなきゃいけないのか」ということです。

抹茶というと、きめ細やかにひかれた粉を思い浮かべる人が多いと思います。

しかし、私が抹茶カフェ「Stonemill Matcha」で気づいたのは、サードウェーブコーヒーのカフェにおけるコーヒー豆の場合と違い、抹茶の粉を自宅用に買って帰る人は少ないということです。

全米ハリウッドセレブが大興奮!<br />自宅で楽しめる抹茶マシン<br />「Cuzen Matcha(空禅抹茶)」<br />を発明した日本人が語る<br />サントリー退社後<br />シリコンバレーで43歳で起業し、<br />「TIME’s Best Inventions of 2020」<br />を受賞できた理由星 友啓(Tomohiro Hoshi)
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
経営者、教育者、論理学者
1977年生まれ。スタンフォード大学哲学博士。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。教育テクノロジーとオンライン教育の世界的リーダーとして活躍。コロナ禍でリモート化が急務の世界の教育界で、のべ50ヵ国・2万人以上の教育者を支援。スタンフォード大学のリーダーの一員として、同大学のオンライン化も牽引した。スタンフォード大学哲学部で博士号取得後、講師を経て同大学内にオンラインハイスクールを立ち上げるプロジェクトに参加。オンラインにもかかわらず、同校を近年全米トップ10の常連に、2020年には全米の大学進学校1位にまで押し上げる。世界30ヵ国、全米48州から900人の天才児たちを集め、世界屈指の大学から選りすぐりの学術・教育のエキスパートが100人体制でサポート。設立15年目。反転授業を取り入れ、世界トップのクオリティ教育を実現させたことで、アメリカのみならず世界の教育界で大きな注目を集める。本書が初の著書
著者公式サイト】(最新情報やブログを配信中)

星:たしかに、コーヒー豆が棚に陳列されているのは見ますが、抹茶がずらりなんて風景は見ませんね。抹茶ラテとか抹茶ドリンクはかなり人気がある気がしますが、どうしてでしょうか。

塚田:まず物性的に、粉の抹茶は、水に溶けにくいとか、酸化しやすいとか、粉ゆえの扱いにくさがあるんです。

そのうえ、ユーザー的も「抹茶を自分で点(た)てるのはとても難しい」と感じている人がほとんどだったからです。

星:なるほど。せっかく買ってきても自分でやりにくいのですね。

塚田:そこで発想転換し、「抹茶=粉」というバイアスを外してみました。

「Cuzen Matcha」の基本思想は、茶葉からダイレクトで液体化するものです。

液体にすることで、粉のわずらわしさから解放されます。

星:私も自宅で「Cuzen Matcha」を使っていますが、粉ではなく葉の状態でマシンに入れますよね。

塚田:抹茶をひく前の茶葉の状態を碾茶(てんちゃ)といいますが、それこそ昔は粉の抹茶は流通しておらず、飲む直前にそのつど碾茶をひいて飲んでいたのです。

しかし、保存技術や流通が発展するにつれ、粉が主流になり、みんなそれが当たり前だと思うようになりました。

つまり、今は当たり前なことでも、以前は当たり前ではなかったわけです。

星:ところで、着眼点を変えるということで言えば、あえてアメリカで抹茶にフォーカスしてビジネスを展開していこうと思ったことも、革新的な試みだったのではないでしょうか。

塚田:アメリカに抹茶を広めようとした人は以前からいたんですが、飲料としてより、スイーツやソフトクリームから広まっていました。

2015年頃、ニューヨークに抹茶カフェが増え、新しい価値観を持つミレニアル世代やZ世代の間で抹茶が持つピースフルでサスティナブルな側面が注目され始めました。

私はユーザーと対話を重ね、抹茶の「コーヒー代替飲料」としてのポテンシャルを実感し、自分の中で「いける」と確信したのです。