SBGの利益の振れ幅が大きい原因は、評価損益にある
カノン でも、今回の決算の主役はこの事業ではなさそうですね?
林教授 鋭いね。主役はファンド事業がもたらした7.5兆円の投資損益合計だ。
カノン すごい! この金額だけでも、ソフトバンク事業の売上高を超えてしまいますね。
林教授 そう。そしてさらに注目すべきは金額ではなく、この利益の大半が実現していない点だ。
カノン えっ、どういうことですか? 詳しく教えてください。
林教授 SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)は世界中の未上場企業を探して投資をしている。2020年度に韓国のアマゾンと言われているCoupangや米国料理宅配会社Doordashが株式公開してSBGは巨額の利益を得たんだ。
カノン はい。
林教授 注意すべき点は7.5兆円の投資利益のうち、上場株式の評価益が4.2兆円、未上場企業株式が1.7兆円だ。さらにアリババ持分法投資利益5725億円はアリババの利益の一部でしかなく、お金ではない。
カノン つまり、これら6.5兆円は絵に描いた餅っていうことですか?!
林教授 いや、全くの画餅とは言い切れない。売ればお金になるからね。ただ問題は、未上場企業の評価益1.7兆円だ。この株価が適正かどうかは投資家にはわからない。とまれ、SBGの利益の振れ幅が大きい原因はこの評価損益にあるんだ。
カノン 投資事業が順調ならSBGの業績は安泰なのですね。
林教授 ソフトバンク事業と比べて投資事業は変動的だから、安泰とまでは言えないね。相当タフな精神の持ち主でなければ、この会社の社長はつとまらない。
カノン そうですね。それにしてもSBGの決算書って難解なんですね。
林教授 正直いってボクも完全に理解できているわけではない。だが、利益を鵜呑みにしてはいけないという点は、他の会社の損益計算書といささかも変わらない。
カノン 結局、そこに落ち着くわけですね。今日はありがとうございました。
公認会計士、税理士
元明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授
LEC会計大学院 客員教授
1974年中央大学商学部会計学科卒。同年公認会計士二次試験合格。外資系会計事務所、大手監査法人を経て1987年独立。以後、30年以上にわたり、国内外200社以上の企業に対して、管理会計システムの設計導入コンサルティング等を実施。2006年、LEC会計大学院 教授。2015年明治大学専門職大学院 会計専門職研究科 特任教授に就任。著書に、『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』『美容院と1000円カットでは、どちらが儲かるか?』『コハダは大トロより、なぜ儲かるのか?』『新版わかる! 管理会計』(以上、ダイヤモンド社)、『ドラッカーと会計の話をしよう』(KADOKAWA/中経出版)、『ドラッカーと生産性の話をしよう』(KADOKAWA)、『正しい家計管理』(WAVE出版)などがある。