世界中の独裁者や権威主義が、中国に倣おうとしている

 さらに深刻な問題となるのは、中国が香港やウイグルの問題で、米国などの経済制裁を跳ねのけて強権的な姿勢を守っていることを、世界の権威主義、全体主義の指導者や独裁者が、しっかりと見ていることではないだろうか(第267回)。

 例えば、ミャンマー国軍は民主派への弾圧をやめる気配はない。その背景には中国の「成功」があるのは間違いない。もちろん、中国は「内政不干渉」の姿勢を貫き、ミャンマーに対しても沈黙を守っている。しかし、民間企業の経済活動や経済支援は、内政干渉にはあたらない。

 米国などが経済制裁した穴は、中国が埋めてくれるとミャンマーは考えている。だから、米国などの批判を無視できるのだ。

 この状況は、ミャンマーだけではなく、世界中に広がる可能性がある。世界の権威主義、全体主義の指導者が、中国の経済支援を背景に、反体制派の弾圧を公然と行うようになっている。自由民主主義、基本的人権という価値観が、これほど簡単に無視される状況は、これまでなかったことだ。

なすすべなしの自由民主主義陣営、
強権的国家によって停滞する時代はいつまで続くか

 現在、香港、ミャンマーなど、軍・警察という「暴力装置」に民主派の若者は素手で戦っている。そんな若者たちに対して、我々、自由民主主義陣営が、「声を上げ続けよ」というのは、正直無責任な話だ。

 「暴力装置」に対しては、結局は武力で対決するしかない。だが、米国など自由民主主義国が、武力を投入するのは、ほぼ無理だ。国際法上、武力行使を正当化するのは難しいし、中国、ロシアが安保理常任理事国である国連は身動きが取れない。それ以上に、米国などが武力行使に国内世論の支持を得るのは不可能に近い。

 要するに、自由民主主義陣営は、権威主義、全体主義の強権的な人権侵害が世界に広がることを止めるすべがない。

 できることは、中国を中心とする権威主義的な陣営と決別した同盟ブロックを作ることくらいではないだろうか。

牙を抜かれた香港の学生たち、中国の野望はアヘン戦争以前の秩序回復か本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されています。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 日本は、中国に経済的に追い越されたというが、米国や英国と合わせれば、中国よりもはるかに巨大な経済圏と安全保障網を形成できる(第228回)。

 その基盤の上に、中国など権威主義的な国の若者に対して、門戸を開けておくことが重要だ。自由民主主義、人権、言論、学問の自由を守り、イノベーティブな社会を保ち、世界中から優秀な人材を受け入れていくことが鍵になるだろう。

 中国は、「ミニ米国」のような経済特区を作って、限定的に市場経済を導入することで発展してきた。決して、中国の権威主義の優位性が高度経済成長をもたらしたわけではない(第263回)。

 強権的な政府が経済を抑え込もうとすると必ず失敗する。それは、ソ連や東欧諸国の失敗など、歴史が証明していることだ。いずれ優秀な人材は離れ、経済は停滞し、権威主義的な体制は自壊していく(第232回・p5 )。

 問題は、何年待てば自壊するのかということだ。我々はそれを待っているだけでいいわけでもない。

 今、恐ろしいことは、中国が米国を追い越すことではない。むしろ中国共産党政権が崩壊することなく、ただ権力を維持するためだけに強権的な姿勢を続け、国民は静かに黙っているだけで、何十年も世界が停滞した状態が続いていくことではないだろうか。