速筋の筋力アップに葉物野菜が効くらしいPhoto:PIXTA

 筋力アップに効く栄養素というと、タンパク質やプロテインというキーワードが思い浮かぶが、もう一つ「硝酸塩」も忘れてはいけない。

 硝酸塩は緑の濃い葉物野菜に含まれる成分だ。動物実験レベルでは、硝酸塩水を与えると瞬発力を発揮する「速筋線維(速筋)」の収縮力が強化されることがわかっている。硝酸塩の血管拡張作用や、筋肉の収縮に働くカルシウムイオンの増加が効くようだ。

 ヒトを対象とした調査では、オーストラリア・メルボルンで行われている糖尿病予備群の人々の追跡調査「AusDiab」がある。

 参加者3759人(女性56%、登録時の平均年齢48.6歳)の食事内容と筋力との関連を解析した結果、1日あたりの硝酸塩の摂取量が最も多かった群(中央値91mg/日)は、最も少なかった群(同47mg/日)より、12年後の膝関節の伸展筋力が11%(2.6kg)強かった。

 また、椅子から立ち上がって、8フィート(およそ2.44m)先のマーカーを回って戻るという動作の時間を測る「8ft TUG」テストでも4%(0.24秒)速かったのだ。懐かしい「ポパイ」のホウレンソウには、科学的裏付けがあったというわけ。

 ただ、硝酸塩を摂れば摂るほど筋力アップではなく、毎日90mg程度摂ればいいようだ。

 日本食品標準成分表(八訂)によると夏採りホウレンソウ(生)の可食部100gあたりの硝酸塩含有量は200mg。キャベツや白菜は同じく100mgほどだ。

 調理過程で半分ほど失われるが、毎食「葉物野菜」を意識して食べれば十分だろう。

「AusDiab」の研究者も、「硝酸塩はサプリメントより、健康に欠かせない必須ビタミンやミネラルも同時に摂れる野菜を食べるほうがいい」としている。

 硝酸塩は一時期、発がん性が疑われたが、2010年に世界保健機関がこれを否定。今ではむしろ、アスリートのパフォーマンス向上や降圧効果、心血管疾患リスクの低減が認められている。

 運動不足が続く今だからこそ、野菜をきちんと食べておきたい。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)