日本の競争力は奪われるばかり
海外勢はボランティアで連携するのではない!

 海外の半導体企業が日本に研究拠点をつくるのは、何も「日本の国際競争力を高めてやろう」などというボランティア精神からではなく、シンプルに「自社の競争力向上のため」だ。だから、連携したからといって、日本企業に海外の技術力が簡単に奪われ吸収されるはずもない。

 そのあたりも前出・服部氏がズバリ指摘しているので引用させていただく。

「日本で研究を行う建前になってはいるが、実際の目的は、日本国内の企業や大学研究室からの技術情報収集(あるいは少額の研究資金を提供した協業)、装置・材料の調達、日本企業に勤務する技術者のリクルートのいずれかあるいはすべてだろう」(日経クロステック

 このような意図を持つであろう台湾企業を平身低頭で日本に呼び寄せて、税金までくれてやるというわけだ。

 江戸末期、日本のエリートは「外国人を呼んで技術を教えてもらう」という発想で近代化を進めたが、官僚の頭の中はそこから時計の針が止まっているということなのかもしれない。

TSMCの八方美人ぶり

 こんなに嫌味を言うと、愛国心溢れる方たちの間から、「世界的企業なのだからそれくらいの打算があることは当然だが、互いに中国の脅威に立ち向かうために協力するしかないのだ」というようなご意見が出るかもしれない。

 たしかに、米中経済戦争の中で、一部中国企業への製品供給停止を発表し、米国寄りの姿勢を見せたTSMCとしても、日本という「同志」と手を組む必要がある。だから、逆に日本も国益のためと割り切って、TSMCをしたたかに利用すればいい…という考え方はできる。

 しかし、そういう壮大な計画に水を差すようで恐縮だが、TSMCは別にそこまで深刻に中国に背を向けているわけではないのだ。客観的に見れば、米中どちらにもいい顔をして非常にうまく立ち回っている。対中国を念頭に、日本とそこまで強固な同盟関係を結ぶ必要もないのだ。

 今年4月、TSMCはバイデン政権への配慮から、一部中国企業への製品供給停止を発表している。

 しかし、その発表からほどなくした4月26日、日本経済新聞が、TSMCが現在フル稼働中の中国・南京市のファウンドリー(TSMC Fab16)に新ラインを設置し、28億8700万ドル(約3100億円)を投じ、車向け半導体などを増産すると報じている。日本政府の「5年間で190億」が霞んで見える投資だ。