配偶者を亡くした場合、公的年金から遺族年金が支給されます。ただし、いくつかの条件を満たす必要があります。亡くなった人に生計を維持されていたことが大前提なので、無収入の妻が亡くなってもAさんには遺族年金は支給されません。たしかに、Aさん一家の家計は、もともとAさん1人の収入で成り立っていて、しかも年収は1000万円を超えています。

 ところが、「貯金があと10年も持たないんです」と言いながら見せてくれたのは、Aさんが作ったキャッシュフロー表でした。

 キャッシュフロー表は、家計相談の際にファイナンシャルプランナー(FP)が相談者の家計状況などを聞き取りながら作成するもので、年間の収支をもとにこれから数十年の収支を数字(金額)で予測します。例えば、住宅購入の際に、子どもの教育費を負担しながら住宅ローンを返済していき、定年までにどれくらいの老後資金を積み上げられそうかといったことを確認できます。家計収支の健全度を長期的に把握することができるのです。

 優秀なAさんは、あまりにお金が出ていくので不安になり、インターネットで検索してキャッシュフロー表の作成方法を調べ、エクセルを使って自分で作成したと言います。もともと家計は、Aさんが管理していました。これは夫が高収入の家庭ではよくあることです。

 夫は自分が稼いだお金の使い道は自分で決めたいという意識が強く、収入のない妻は「生活費はこの範囲で」と指示された金額でやりくりしています。突発的な支出や大きな支出があるときは妻が説明をして、夫が金額や内容を確認した上で支出します。この方法自体は、悪いことではありません。妻を亡くした後、すぐにキャッシュフロー表を作成できたのも、住宅ローンや光熱費、子どもの授業料や塾代などの教育費をAさんが把握していたからでした。

毎年300万円赤字の計算に…
家計の問題点とは?

 ところが、日常の生活費に関しては盲点でした。妻がやりくりしていた金額では到底足りないのです。それもそのはず、家政婦さんに子どもたちの世話や家事代行をお願いすることになったからです。

 Aさんのキャッシュフロー表は、毎年300万円以上の赤字が続き、これにより約2000万円の貯蓄が7年ほどで底をつき、その後は数千万円の資金不足に向かって一直線に沈んでいきます。キャッシュフロー表を見たとき、Aさんは奈落の底に突き落とされたような気がしたことでしょう。