蒙古タンメン謝罪文で感じた
「悪意」の正体

 私がその文章に感じたのは「悪意」です。意図的な悪意ではないとは思います。文面から読み取ると、お店の対応について本社にたくさんクレームが来た様子です。おそらく、詳細を説明したかったのでしょう。

 先に食べ終わった子どもはソファで遊び、もう食べ終わった雰囲気の大人は5分間「会話していた」と状況を説明しています。こうやって公式ホームページに掲載されている情報を私が記事に転載すること自体、小林さんのプライバシーの再拡散につながる恐れがあるので申し訳ない気持ちがありますが、今回の記事の趣旨から最低限だけ転載させていただきます。

 誤解のないように先ほど述べたお店の権利と顧客の権利に立ち戻って解説すると、お店が食べ終わって5分たったお客様を退席させるのはお店の自由です。「ここはフレンチのお店ではなくラーメン店なのだから、食後の余韻を楽しみたければ喫茶店にお移りください」と主張する権利はあります。一方で、お客様は楽しく食べる権利があります。これもサッカーでいうユニフォームを引っ張る行為ですが、会話を楽しみながら残り少ない食事をゆっくり味わうのもアリだと私は思います。

 それでも、子どもはソファで遊び、食べ終わった雰囲気の大人は5分間会話していたと書くことで、印象操作ができる。私自身の子育ての経験からいっても、先に食べ終わった子どものお行儀がちょっと悪いのは“あるある”です。子育てという仕事は大変です。

 1日の子育てが終わってちょっとしたぜいたくでラーメンを食べてほっこりして、友達と5分だけ会話を楽しむ。そもそも、これは今回の騒動に関する蒙古タンメン中本の対応とは、何も関係ない話です。それが、なんとなく悪いことのように印象操作されている。

 白根社長の発表した文章をよくよく何度も読むと「という状況から店員が勘違いした」「お詫び申し上げます」と書いてあるのですが、関係のないプライバシー情報を追加することであたかも小林さんのグループも悪かったかのように印象づけ、読者がお店に同情するような文になっている。この点は、私のようなプロのライターにしか気づかれない書き方のテクニックです。白根社長がご存じかどうかわかりませんが、こういう文章技術はノウハウとしてあるのです。

 しかしこういう文章の効果は絶大で、多数の読者は小林さんに非があると思ってしまう。実際、小林さんはお店を巻き込んだことをブログで謝罪していますが、それを報じたヤフーニュースのコメント欄は白根社長の公開した情報を使って小林さんを非難するコメントで埋まっています。

 本来事実関係を調べて過ちを謝罪するだけなら、私が冒頭に書いた、シンプルな事実情報だけで十分なはずです。でも蒙古タンメン中本は防犯カメラの映像から分単位で小林さんのグループの行動を分析して、第三者に食事中のプライバシーを公開し、結果としてネットリンチを引き起こしている。これがホームページに公開された文章に私が感じた悪意の正体だと思いました。

 一連の文章は、正確には「YAHOOニュース等で騒がれているブログの件での、お詫びと状況説明」というタイトルで発信されているだけで、どこにも小林さんのプライバシー情報だとは書いていないのは理解したうえで私も発言しますが、誰が読んでも小林さんのことだとわかる文章です。

 今回の事件は、本来であれば顧客同士のトラブルに従業員の勘違いが生んだ、ちいさな出来事だったはずです。

 人間にとって食べることは本能で、だから食べるときには生き物としての本性がどうしても出てしまう。私はそれをお店から公表されたくはないです。蒙古タンメン中本についてはまじめな会社だと私は思います。ただネットには越えるべきではない一線がある。そこは肝に銘じるべきです。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)