専門家会議はGo Toに反対しなかったのに

 むしろ、予算をかけずに需要を伸ばす方法はいろいろとある。東京オリンピック・パラリンピックもそうだ。もちろん、競技場を造ったりして、お金をかけたが、これは過去に投下したコストであり、今さらどうしようもない。これからのことを考えれば、追加的予算はほとんどなしで需要を増やせる。

 感染症学者がGo Toに反対せず、五輪に警告を鳴らすのは不思議だが、Go Toで人流が増えたから感染が増えたことを反省してのことなら、それも良い。あるいは、彼らにとって、五輪はGo Toほど重要ではないのかもしれない。五輪が大したものではない、というのは健全な精神かもしれない。

 大坂なおみ選手の会見拒否を、彼女がうつ病だと公表する前、私は「会見もギャラのうちだろう」と思っていたことを告白する。さらに、大坂選手を厳しく批判していた仏テニス連盟(全仏オープンの主催者)のジル・モレトン会長自身が、この間の事情を説明すべき記者会見を拒否したことで、私は、考えを変えた(「大坂なおみ批判の全仏会長 今度は自分が“会見ボイコット”で非難の嵐」2021年6月1日東スポWeb)。

 海千山千の興行師が記者会見を嫌がるなら、若いアスリートが嫌なのは当然だ。仏テニス連盟会長は、自分が嫌なことは他人に求めないという道徳律を理解していない人間だった。国際オリンピック委員会(IOC)委員らの質も、大して変わらないだろう。

 五輪の商業的価値を高めるために、五輪が崇高なものであり、IOC委員を聖人のように祭り立ててきたのが間違いだ。五輪など興行師のやってることだと考えれば、安全・安心なオリンピックなど簡単だ。

 選手、報道関係者、オリンピック委員関係者、来日する要人に、ホテルと会場以外に外出したら即刻国外退去させるようにする。日本は、日産自動車という大企業を救ったカルロス・ゴーン被告だって逮捕・起訴した国なんだ。五輪やIOC関係者ぐらいなんでもない、と言えば良い。それで来る人は減って、管理が楽になる。最初に規制を破った人間を国外退去させれば、それで誰もが日本の監督者に従うようになる。

 77兆円のコロナ予算の中身を具体的に見てみると、実におかしいことが多い。30兆円の旅行外食産業に17兆円配り、14兆円の融資をしたのに壊滅的打撃を受けている。医療提供体制のために12兆円を投入したのに、コロナ専用病床はほとんど増えない。

 全人口に配った13兆円が無駄かどうかは、多分に哲学と趣味の問題だ。Go Toは、混乱をもたらしただけだった。他にもよく分からない予算を使っている。これらも何らかの需要は生み出したはずだが、結果は22兆円のGDPのマイナス成長だった。77兆円予算は、混乱したものだったと言って良いだろう。

 なお、日本がコロナ対策をうまくできないのは、現行憲法で緊急事態条項がないからだという言説がある。しかし、緊急事態条項があったからといって、それを使って何をすべきかが分からなければ、予算の混乱ではなくて、権力の混乱が起きるだけだ。大事なのは、政府が何をしたらいいのか、何をすべきだったのかを、後知恵でいいから具体的に考えることである。