泣いていたヘルパーさん

かげ:ある時、一緒に働いているヘルパーさんが廊下で泣いていたんです。年上のヘルパーさんで、私よりも長く働いてて、物の場所や在庫を全部把握しているすごい人なんです。「どうしたんですか?」と聞いたら、看護師に移乗(ベッドから移動させること)を手伝ってと言われて行ったら、たまたま看取りの方の移乗だったということです。でも、それを告げられておらず、なんだか包まれてるな、とは不思議に思いはしたのですが、いつもどおり移乗してからはじめてその人が亡くなっていることに気づいたとのことでした。

亡くなっている、って、すごく悲しいことなのに、どうしてこんなに普通に移乗を頼んでくるんだろうと、すごくつらい気持ちになったのだ、と。「たしかに亡くなる人は多いけれど、そんなおろそかにするようなことをして、信じられない」って泣いていたんですね。

たぶん、移乗を依頼した看護師もべつにおろそかにしたわけではなく、次々と入院患者さんがやってくるので、とにかく急がないとって思ったのでしょう。

でも、ヘルパーさんは、「救急では働けない」「亡くなりすぎてつらい」って。「亡くなったことに対してつらくないの?」って聞かれました。

自分たちも、亡くなる人がいればつらいし、死は怖いです。でも、そういう思いを抱えながらも動けるというのが、ここで働いている人の特性なのかなと思っています。

つらいという思いは無理に抑えなくていいと思います。けれど、つらくても、そう思いながらも動かなければいけない人もいるということなんだと思うんです。

結局、そのヘルパーさんは別の科に異動しました。

亡くなる人がいる、でも、次の患者さんがいるという時には、悲しい気持ちを抱えながらも次の患者さんに向き合うことができるということが、救急に向いている人、そういうところで働ける人の特性なのかなと、救急で働いてみて思いました。

後閑:絶対誰かが請け負ってくれないと困る仕事で、それこそ誰にでもできる仕事ではないから、そこで働く人たちは本当に尊い仕事をしていると思います。そのヘルパーさんのように、できれば避けたい場所でもありますよね。ご家族や本人にとっては、おそらく一番つらいであろう時期を支えられるって、誰にでもできることではない、すごく尊くて大事な仕事だと思います。

かげ:逆に私は、長く同じ人と接するのが苦手です。その患者さんのことを考えすぎてしまって、次に行った時、どうなっているだろうか、何かあったら連絡してほしい、と思ってしまうくらい、長く接すると感情移入してしまいます。それで自分の私生活に影響してしまうこともあったりするほどです。向き不向きというのは、看護師にもあるのかなと思います。

後閑:そうですね。だから自分がそこには向いていないと思ったら、看護師を辞めるのではなく、その場所を変えてみるのもありかと思います。それって大事ですよね。

かげ:でも、看取りは気になっているところではあるので、いつかは向き合いたいと思っています。

後閑:最後に、かげさんは看護師さん向けの本を書かれていますね。これを読んでくれている看護師さんもいると思いますので、看護師さんに向けてメッセージをいただけませんか。