日本政府が経済を止め続ける
2つの根深い理由

 ではもし「医療崩壊を止める」よりも「なんとしてもオリンピックを中止させないこと」の方を一番重要なゴールに設定したとしたら、政策はどう変わるでしょうか?目的が変われば手段は変わります。

 わたしが総理大臣ないしは都知事の立場だったら「経済を止める」が正解です。

 理由は二つあります。一つは日本経済を止めても内閣や都庁は困らないからです。なぜなら、IOCへの1兆円の賠償金は政府のコストだけれども、緊急事態宣言を1週間延長するごとにかかる1.2兆円のGDPの損失は国民のコストだからです。

 すでに5月11日に緊急事態宣言が終わらなかったことでもう8週間、単純計算で累計10兆円近くもGDPは傷んでいると推定されます。でも、繰り返しになりますが、これは内閣や都庁が困ることではない。むしろIOCとの賠償金交渉が始まった方が、国会の予算議論で政府は困ります。国から見れば自分の1兆円よりも国民の10兆円のほうが安いのです。

 そしてもう一つの理由は、自粛をゆるめたら確実に第5波が来ることです。実は危惧されていた高齢者へのワクチン接種の遅れはかなりリカバリーが進んでいて、結果としてこの夏の第5波では死者数は非常に低くなることが期待されます。

 つまり、たとえ第五波が来ても医療崩壊のリスクはこれまでよりもかなり低くなると予想されます。そうでなければワクチン接種を急ぐ必要はないですから。

 しかし、オリンピック開催に反対する国民は、コロナの新規感染者数を気にしている。感染者数は64歳以下のワクチン接種が進んでいない状況下では人の外出が増えれば自然に増える。オリンピック開催直前段階でまた感染者が5000人を超えてきたらデモ隊が官邸や競技場を取り囲んで大混乱になるでしょう。だったらやれることは全部やって、コロナの感染者数が抑えられるかどうか社会実験でも何でもしたほうがいい。

 その観点からイベントの入場者は絞り、飲食店の営業はお酒の提供を制限し、県をまたぐ移動も制限して旅行の自粛も推奨しているのだとわたしは考えます。

政府のコロナ対応への違和感
正体はオリンピックへのスタンスの違い

 いま日本では明らかにおかしなことが起きているとみなさんお感じでしょう。飲食店の経営が困窮しているのに、お酒のメニューの販売が制限されている。しかし選手村への酒の持ち込みは自由で、選手村で選手がバカ騒ぎすることは黙認です。

 そしてすでに東京の病床がかなり空いてきたにもかかわらず、まだまん延防止等重点措置の継続で緊急事態宣言とそれほど変わらない我慢を国民に強いている。

 おかしなことが起きている時には、隠された違う前提条件があるものです。あくまで推理ではありますが、オリンピック開催に関する見方が(4)か(6)かの立場が違うと考えることで、その理由が見えてくるものです。

 最後にざんげしておきます。5月末でコロナが収束して6月以降、日本経済は回復すると想定したわたしの未来予測は完全に外れました。政府や都がここまで狂ったように経済を止めに来るとはわたしは想定していませんでした。その点でまだまだわたしは未熟です。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)