アフター・コロナに向けて
鉄道の新しい利用方法を模索

 その中で、当記事が注目したいのは旅客輸送の「新しい形」を模索した取り組みだ。

 東武鉄道では6月1日から30日まで、平日の夕・夜間と、土休日の午前中の下り列車を除く各特急列車で、通常1人当たり1席分としている特急券販売について、ソーシャルディスタンスの確保を希望する乗客に対し、隣席の特急券を小児特急料金で同時購入することで、1人で2席分の利用を認める試みを行っている(乗車券は大人1人分でよい)。

 3月13日から4月25日に期間限定で行った前回の試行では好評だったとのことで、対象列車を拡大し再度、実施するものだ。

 もうひとつがJR九州とJR東日本・JR北海道が新幹線で実施する「リモートワーク推奨車両」だ。

 JR九州は6月14日から30日の平日、九州新幹線「さくら」の上り1本と下り1本の6号車普通席車両で、JR東日本・JR北海道は6月14日から7月16日の平日、東北・北海道新幹線「はやぶさ」の上り5本、下り5本の1号車で実施する。

 いずれも座席の指定は行わず、通常の車両からリモートワーク推奨車両に移動して利用する。リモートワーク推奨車両では座席でウェブ会議や携帯電話などによる通話が可能で、WiFiルーターなどの機器の貸し出しサービスも実施する。

 一見、全くアプローチの異なる2つの取り組みだが、注目すべきは、隣席に他の乗客が来ないように特急券(座席指定券)を購入しておくのも、座席で通話をするというのも、これまでは違反行為、迷惑行為として認められていなかったという点だ。

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 鉄道は多数の人が一定時間、同じ空間を共有する公共交通機関だ。他にも乗車したい人がいるのに利用しない人の分の座席を指定して場所を専用したり、車内で大きな声で通話したりすることは、他の利用者にとって迷惑になるという理由で禁じられてきた。しかし逆に言えば、そうしたニーズはあったわけだ。

 東武鉄道とJR各社の新たな試行は、利用者の激減により車両に余裕ができたことで、従来は禁じられていたニーズにも応えることができるようになったともいえるだろう。

 となれば同様に、これまでは「禁忌」とされてきた他の行為も、空間を分けることで、新たなサービスとして提供することが可能になるかもしれない。これが付加価値として認められるようになれば、新たな収益源になる可能性もあるだろう。アフター・コロナの生き残りに向けて、鉄道事業者の試行錯誤は続く。