子どもの「名前を付ける行為」も見逃せない

 さらに、ウルフは衝撃的な知見を紹介している。それはカナダの心理学者ビーミラーによるものだが、幼稚園入園時の語彙レベルが下位4分の1に入る子どもたちは、語彙力でも読解力でも平均以上の子どもたちや平均並みの子どもたちに追いつけないままに終わるというのである。しかも、小学校6年生までには同学年の平均的な子どもたちとの語彙力や読解力の差は、ほぼ3学年分にまで広がっているという。語彙と読解力との相互作用のため、幼児期の語彙の発達の遅れは致命的なものになるというのだ。

 人間の発達には可塑性があるため、鳥類などのように発達初期の経験がその後の生涯を決定づけるというほどではないし、遅れたら取り返しがつかないなどと焦る必要はない。だが、言葉をどんどん獲得していく幼児期に、豊かな言語環境に触れさせることが大切なのは言うまでもないだろう。

 ウルフたちは、幼児期に対象物を命名する能力が、その後の文字を読む能力の発達に関係していることを見出している。

 ここから言えるのは、幼児期初期の子どもが指差しながら事物の名前を確認しつつ覚えていくときに、幼児の頭の中では言語能力の発達にとって非常に重要なことが行われているということである。言葉を話し始めた頃の子どもの指差し行動につきあったり、しりとりなどの言葉遊びをすることも、子どもの言語能力の発達にとってとても大事なことなのだ。

 その後の言語能力の発達においては、絵本を読んでもらったり、自分で読んだりすることで、語彙力や読解力を高めていくことが非常に重要になってくる。それが順調に進んでいくかどうかで、小学校卒業時点の言語能力まで予測できるというのである。