菅政権の看板政策・デジタル化推進
しかし、課題や難題も多く…

 もちろん、マイナンバーと預貯金口座のひも付けは、納税者にとってメリットもある。例えば、相続が発生すると、法定相続人は被相続人の全財産を洗い出さねばならないが、その調査や手続きはスムーズになるだろう。被相続人に借金やローンなどの負の財産があったとしても、把握漏れを防げるだろう。

 要は、法にのっとった生前の相続税対策を行い、正しく税の申告・納税をしていれば、何も恐れることはない。税理士は脱税のアドバイスは厳禁だが、節税のアドバイスはできる。税務調査対策も指南できる。

 税務調査シーズンは毎年7~12月といわれ、相続税納税者は申告から1~2年後が要注意とされる。しかし、税務調査がデジタル化へ向け、早速、今年から劇変するとは考えにくい。ただし、昨年のように新型コロナウイルスの影響を受けて、税務調査の出足が遅れるという事態はなくなっていくことであろう。

 9月1日創設予定のデジタル庁を、菅義偉首相は「改革の象徴」と位置づけている。しかし、首相自身、令和2(2020)年9月23日の「デジタル改革関係閣僚会議」で発言しているように、新型コロナウイルス感染症への対応は、日本におけるデジタル化の遅れを浮き彫りにしてしまった。

 同日の首相発言「マイナンバーカードの普及促進を一気呵成(かせい)に進め」るも、可能だろうか。令和3(2021)年5月1日現在、マイナンバーカード交付率は30%。個人的経験で恐縮だが、筆者は申請から取得まで半年以上要した。国民の取得意向にデジタル化が追い付いていない。道程は恐らく長い。

 個人情報保護対策も万全とはいえない。マイナンバーに関しては、情報漏洩問題がたびたび浮上している。記憶に新しいところでは、平成30(2018)年、日本年金機構から個人データ入力を委託された情報処理会社が中国業者に再委託した問題。日本年金機構は漏洩を否定し、真偽は曖昧なままだ。

 確かに、現在、日本のデジタル化は世界に比して後れを取っている。少々古いデータにはなるが、総務省『令和元年版 情報通信白書』の「各国のICT投資額の推移の比較」を見ても明らかだ。ICTとは、Information and Communication Technologyの略で、情報通信技術のことである。

 今後のデジタル化の進捗を、心して見据えたい。