1970年に創業した日本最古のハンバーガーチェーン「ドムドムハンバーガー」をご存じだろうか。最盛期の1990年代には全国で400近い店舗を数えた。しかし徐々に店舗を減らし、現在は27店舗しかない「絶滅危惧種」である。しかし2018年にある女性が社長に就任してから、ドムドムは静かに変わりつつある。イベントに参加すれば即日完売、コラボ商品を販売すれば大人気、そして2019年に発売した「丸ごと!!カニバーガー」は大評判となり、売上に貢献。ついに2020年度の決算で、ドムドムハンバーガーは黒字化を達成した。コロナ禍で飲食業が苦しい時代であることを考えると快挙だ。藤﨑社長はどうやって組織を立て直したのか? 7月6日発行の『ドムドムの逆襲』(ダイヤモンド社)からそのヒントを学ぼう。
「夢中になれること」「人の心を思うこと」
最近、取材などで“社長の資質”を問われることも増えました。これは、難しくて自分でも良くわかりません。ただ、ひとつだけ言えることがあります。
思い当たるとすれば、それは「夢中になれる」ことです。
私は少女時代や主婦時代も含めて、与えられた環境で自分がするべきことに一つひとつしっかりと向き合って、夢中でやってきました。何かに夢中になれる体質なのだと思います。
夢中になれば、いろいろなことが見えてきます。世界の解像度が上がり、気づきが増えます。109のアパレルショップ時代はカーテンを自分で縫って模様替えをしました。新橋の居酒屋『そらき』ではアイスペールを竹素材のものにして、お客様により美味しく感じていただけるようにしました。誰に言われたわけではなく、自分でそうしたくてたまらなかったのです。
今の時代では褒められたことではないかもしれませんが、私は年中無休で働きたくなってしまうのです。
常に不安で発展途上というのも、私がここまで来た理由のひとつだと思っています。不安なので満足感がなくて、次のアクションをいつも考えています。
『そらき』も、1店目が満席で入店を断り続けているうちに、もしかしてもう誰も来てくれなくなってしまうかもと不安になって、隣に2店目をオープンしました。
ドムドムに入ってからも決算の数字を聞いて「今のままでいい」とは思えなくて、意見の言える立場にして欲しいと願いました。いつまでも満足感のない発展途上の状態です。80歳ぐらいになったら落ち着くのでしょうか。
そのほかに私に何か資質があるとしたら、それは「人の心を思う」ことです。相手が何を望んでいるのかを察することです。これは少女時代から身につけ、夫からも学んだことです。そういった意味では私のスタイルは、ずっと一貫していると思います。社長になったからといって特に変わったことはありません。
女性経営者として女性の社会進出についてもよく聞かれるのですが、私自身は社会に出て「女性だから」という理由で何か不本意な思いをしたことはありません。でも今、これだけ聞かれるということは、悩まれている方や不便を感じている方が多いのでしょう。
そういった方に私の経験を伝えたりして力になりたいと思うことはあります。私にも年齢を経て、経験から人に伝えられるものがあるはずです。上を目指す若い女性に何かアドバイスしたりできれば良いなと感じています。
ただ、私にとって「女性が社会で活躍する」の定義は一般と異なるかもしれません。
幼い頃から線が細く、か弱かった妹は、専業主婦として夫の海外赴任に数回同行し、3人の子どもを立派に育てています。私の憧れでもあります。
このように企業で活躍するのも、家のなかで活躍するのもフィールドが違うだけで同じことです。介護や主婦業、子育てに携わることも立派な活躍です。そのことも皆さんにお伝えしたいのです。
私は大学で経営や経済について学んだ経験がありません。でも、主婦業をする中で「人を思いやること」という資質は育てられました。アパレルショップや居酒屋の店長を務めることで、実地の経営を学びました。
大学で学ぶことが全てではありません。主婦でも、小さなお店の店長でも、学べることはたくさんあります。性別や学歴に囚われることなく、自信を持って歩んでいただきたいと思います。
与えられた環境が学ぶフィールドに変化し、私は育てられました。
与えられた環境、目の前にあるものを、しっかり見つめてください。今の自分にできること、学べることがたくさんあるはずです。
そして、体験してみてください。それが経験となって力や自信に変わります。
経験に勝る資産はないのです。