台湾半導体産業が直面
感染と生産要素の不足

 米中対立や世界経済のデジタル化の加速、わが国の半導体工場の火災などによって、世界全体で半導体が足りない。その状況に、台湾での感染拡大や生産要素の不足が拍車をかけている。

 まず、5月中頃から台湾で新型コロナウイルスの感染者が増えた。ワクチン接種が遅れる中で感染拡大を食い止めるには、人の流れを抑制しなければならない。それは半導体部材などの物流やエンジニアの移動を制約し、生産の停滞リスクを高める。

 次に、台湾では水、電力、人材などが不足している。20年から21年前半にかけて、台湾では降雨が少ない時期が続いた。その結果、3月には「雨乞い」が行われるほど水不足が深刻化した。一日の半導体生産に20万トンほどの水が必要といわれるTSMCは、給水車を用いて水の確保を急いだ。5月下旬以降は降雨が増えたが、気候変動は半導体生産に無視できないリスクと化している。

 また、台湾の電力の安定供給にも不安がある。5月には火力発電所の故障によって停電が発生した。冷房需要が高まる夏場を迎え、電力需給はひっ迫する可能性がある。それが半導体生産に与える影響は軽視できない。少し長めの目線で考えると、台湾が重視する脱原発と脱炭素が電力供給にどう影響するかも慎重に考えるべきだ。

 人材も不足している。1月からTSMCは台湾勤務の5万人の固定給を2割引き上げた。中国の半導体メーカーはさらに高い給料を提示して人材の確保を目指し、米欧の企業も台湾での採用を強化していると聞く。半導体部材や製造装置にも品薄感がある。TSMCの業績は堅調だが、台湾半導体産業を取り巻く緊迫感は高まっている。