想定以上の半導体需要の伸び
背景に米中対立の先鋭化リスク

 以上の内容を需要面から考えると、台湾半導体産業のキャパシティーを上回る半導体が世界で必要とされている。価格が幾分か変動するリスクはあるものの、中長期的に半導体の需要は拡大するだろう。

 その要因として、米中対立の先鋭化リスクがある。米国は最先端の半導体生産技術に加えて、人権問題でも中国の人工知能(AI)や監視カメラ技術への圧力を強めている。他方で、中国共産党は米国に対抗して自国の半導体生産能力を引き上げようとしている。それを阻止すべく、米国が制裁などを強化する展開が想定され、中国をはじめ世界の企業が半導体の在庫確保に危機感を強めている。一部では、「上乗せ料金」を支払ってでも十分な半導体在庫を確保しようとする企業もあるようだ。中古の半導体製造装置も値上がりしていると聞く。

 また、世界経済のデジタル化は加速し、さらに微細な回路線幅を持つロジック半導体需要が高まるだろう。例えば、アップルはチップの設計と開発を進め、TSMCの3ナノの生産ラインを用いてチップ生産を行い、次期iPhoneなどへの搭載を目指していると報じられている。つまり、IT先端企業にとって、TSMCの最先端生産ラインをどれだけ確保するかが、自社のバリューチェーン強化を左右する。米インテルは微細化につまずき、一部ではTSMCに生産を委託するとの観測がある。韓国サムスン電子の5ナノの生産ラインは歩留まり向上が難しく、米クアルコムはTSMCに委託先を変更したと報じられた。

 その一方でTSMCなど大手半導体メーカーは工場の新設や生産ラインの増設に取り組んでいる。それだけ先端分野を中心に半導体の需要は強い。問題は、新しい工場が正常に稼働するには、少なくとも1~2年程度の時間がかかることだ。23年頃まで半導体の供給が需要を下回る状況は続く可能性がある。