TSMCの弱点が
日本のビジネスチャンス

 当面、ファウンドリー分野におけるTSMCの寡占は鮮明化し、世界の半導体供給に関する台湾の影響力も増すだろう。

 ただし、TSMCには弱点がある。TSMCは半導体部材や各種装置を生産する能力を持っていない。5ナノ半導体の生産に用いられるEUV(極端紫外線)露光装置は、世界で唯一、オランダのASMLが生産できる。また、TSMCはわが国の企業からシリコンウエハーや半導体製造、検査装置を調達している。

 わが国の半導体部材や装置メーカーが、微細な素材や精密機械の製造に強みを持つ背景には、かつて、本邦半導体メーカーが世界のメモリ半導体市場で大きなシェアを得たことがある。1986年には世界の上位10社の半導体メーカーのうち6社が日本企業だった。しかし、90年初頭のバブル崩壊後の景気低迷や、80年代半ばから96年まで続いた日米半導体摩擦、さらには新興国企業の成長によって、わが国企業の競争力は低下した。最も深刻な問題は、環境の変化が加速する中で、わが国企業が事業ポートフォリオの新陳代謝を高められなかったことだ。

 当面、世界的な半導体需給のひっ迫は続くだろう。それは、本邦の半導体部材や装置メーカーのビジネスチャンス拡大を意味する。わが国企業は、既存事業から先端分野に経営資源を再配分し、さらに微細、精密な高付加価値の半導体部材や製造装置などの創出に取り組み、需要開拓に取り組むべき時を迎えている。

 見方を変えれば、最先端を中心に世界全体で半導体不足が顕在化した結果、世界経済におけるわが国のモノづくりの力の重要性は高まっている。その状況は、ある意味では、本邦企業が長期存続を目指す「最後のチャンス」と言っても過言ではないだろう。