1万円札日本の物価が他国より上昇していないのに、為替レートがその調整機能を果たさず、円の購買力は1970年代前半と同水準にまで低下 Photo:123RF

円の実質実効レートは
70年代前半と同水準で推移

 今年の為替市場の動きを見ると、円が先進国通貨の中で独歩安となっている。

 現状の円の実質実効レートの水準は、2015年6月につけた1970年代前半以来の最安値まで、あと4%程度という水準。また過去20年間の平均からは20%、過去30年間の平均からは30%も割安となっているのだ。

 他国の通貨と比べると、JPモルガンがカバーしている世界46通貨のうち、実質実効レート(CPIベース)が過去20年間の平均から20%以上割安なのは、トルコリラ、ブラジルレアル、コロンビアペソだけ。G10(主要10カ国)通貨の中で円の次に割安なノルウェークローネでも、13%程度しか乖離(かいり)していない。

 長期的に振り返れば、円の弱さは今年始まったことではない。円の実質実効レートはアベノミクス開始後に大幅な円安となって以降、70年代前半と同レベルの水準で推移し続けている。そして、直近の水準は73年2月から変動相場制に移行する直前以来の円安水準となっている。

 円の実質実効レートが70年代前半と同水準で推移しているとは、単純に言えば、円による購買力が70年代前半と同等であるということだ。

 例えば、80年代後半から90年代までは、海外から来日した外国人は一様に、日本の物価の高さに文句を言っていた。一方、日本人が海外旅行に行くと、日本に比べて割安なブランド物を免税店で購入して帰ってくるのが定番だった。

 それがアベノミクス以降に大幅な円安となってからは、来日した外国人は「日本は安い」と口をそろえて言うようになった。実際、コロナ禍前までは銀座で買い物を楽しんでいる海外からの旅行客が目立った。一方、日本人にとっては海外旅行先でさまざまな物が割高に見え、免税店では「日本で買った方が安い」との声が多くなった。

 なぜ、円はこれほどまでに割安となり、購買力が低いままとなってしまっているのだろうか。現象面からシンプルに答えれば、それは『日本の物価が他国と比べて上昇しないのに、為替レートがその分の調整をしていない』ことが背景にある。その理由と考えられる四つのポイント、今後のシナリオについて、次ページから詳解していく。