デジタル化する地図づくり
役割を終える「三角点」

 さて、ごく最近まで地図=紙でした。ところが人工衛星やインターネットの発達は、地図の世界も大きく塗り替えました。「ぐるなび」で検索した居酒屋の場所も、スマホで確認した取引先へのルートも、カーナビで見た渋滞情報も、デジタルデータ化されて端末などに表示されています。国土地理院の地図もデジタル化されており、ウェブサイト「地理院地図」で閲覧できます。従来の地形図が表示されるだけではなく、縮尺も自由に変更できるし、古い地形図や各時代の空中写真、衛星画像、陰影をつけた起伏図なども簡単に表示できます。地形を分類した土地条件図、活断層図などは防災にも役立ちます。これらの重ね合わせも可能です。

 複数の静止衛星から電波を受信して、現在地の緯度や経度を正確に測ることのできる GNSS(全球測位衛星システム)による正確な位置情報は、地図づくりにも活用されています。誤解されやすいのですが、有名なGPSはアメリカ合衆国が運営するGNSSの一固有名詞にすぎません。ロシアのGNSSはGLONASS(グロナス)、EU のGNSSはGalileo(ガリレオ)といった具合です。

 全国約1300カ所に置かれている電子基準点はGNSSの電波を受信し、かつての三角点に代わって地形図製作の基準となっています。

 三角点といっても、三角形の“何か”があるわけでなく、花崗岩などでできた柱石です。三角点は、「三角測量」という測量方法に由来する名前なのです。三角測量をごく単純化して説明すると次の図のようになります。

 明治の初めに、イギリスからのお雇い外国人に指導を受けながら東京に13カ所の三角点を設置して以来、三角点は全国10万カ所に置かれ、正確な地形図づくりに活かされてきました。しかし、GNSSや航空測量の発達に伴って地上での測量作業は行われなくなっています。工場の地図記号が使われなくなったのもこれに関係するようです。中小工場は現地に出向かないと利用実態がわからないため、航空測量による作図では省略せざるを得ないのです(大きな工場は工場名を文字で記入しています)。

 2014年8月、国土地理院の検討委員会は「10年後には三角点は測量の基準としては使われなくなる」と発表しました。しかし、登山をしていると山頂などの見晴らしの良い場所で見つかる三角点には親しみを感じる人も多く(私もその1人です)、すべての三角点が撤去されることはなさそうです。