コロナ禍以降、感染症科の存在感がかつてないほど大きくなっているが、同時に注目度が高まっているのが「リハビリテーション医学」だ。

 新型コロナウイルス感染症の患者は、仮に軽症で済んだ場合でも、長期的な機能障害と能力障害に苦しむ可能性が報告されている。またコロナ治療のために数週間安静にしたことによる「廃用症候群」(寝たきりなど体を動かさないことによって生じる障害の総称)では、健康な成人の場合でもベッドに寝たきりのまま1週間過ごすと10%近くの筋力低下が起きるという。さらに心肺機能の低下も著しく、回復には安静期間の3倍の期間が必要ともいわれている。

 そのため、「発症から数カ月たつが、いまだに後遺症に苦しんでいる」という元患者は多く、入院中の早い段階からリハビリテーション(以下、リハビリ)を進める病院は増えている。

 こうした動きに一早く先鞭をつけたのが藤田医科大学病院だ。大学病院の本院に60床の回復期リハビリテーション病棟を有し、全入院患者(1435床)の44%をカバーする患者にリハビリを提供している同病院は、日本だけでなく、世界のリハビリ医学をけん引していることで知られている。

 全世界の感染者数が報じられる際に必ず名前が出る「ジョンズ・ホプキンズ大学」からも、研究者が来日し、共同研究を進めている。それだけでなく、同大学からレジデント(専攻医)が臨床研修に来る。

 このような大学は、日本では藤田医科大学以外聞いたことがない(普通は日本の医師がアメリカへ留学する)。それだけ、同大のリハビリ部門が進んでいる証しだといえよう。

医療資源がひっ迫する状況下では
「遠隔リハ」は必須

 コロナ患者の受け入れが決まった当初から、大高医師はリハビリのことを考えていた。

「通常リハビリは、療法士が患者に接して行うものですが、コロナの患者に対してはウイルス伝播のリスクを伴うため、従来のようなリハビリ介入は困難です。また、既に存在する遠隔リハビリシステムは、操作に慣れるまで繰り返し直接的な指導が必要であり、現在の隔離状態には適していません。さらに既存システムは一般に高価であり、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより医療資源がひっ迫している現状にそぐわないなどの問題点がありました」

 そこで開発した新システムは、患者が使用するタブレットとパルスオキシメーター(皮膚から動脈血酸素飽和濃度を測定する装置)、および医療者が使用するパソコンからなるシンプルな構成。タブレットには、会議ソフトウエア(Zoom、Skype)とリモート制御ソフト、およびパルスオキシメーター制御アプリケーションがインストールされていて、テレビ電話の要領での会話や経皮的動脈血酸素飽和度などの監視が可能というものだった。

 遠隔リハビリの内容は、バイタルサインと基本的な運動能力の確認に続き、体の動かし方を動画で伝えて患者に行ってもらい、改善点を理学療法士がSkypeなどで指導するというもので、1回のプログラムは準備時間も含めてわずか20分。

 今回、新システムでリハビリを実施したのは10人。年齢は40代~70代だった。4人はタブレットやスマートフォンの使用経験がなかったが、開始に際して病室での直接的なサポートを要したのは1人のみで、他の9人はサポート不要だった。最初のSkype通話からリハビリ指導までに要した準備時間は1分強から4分程度。簡単かつ直感的に、システムを使いこなせたことが分かる。

 結果、リハビリに参加した患者と理学療法士らはいずれも、有用性について「安全に運動できる」「運動中の医療専門家との通信が役に立つ」など、満点に対して90%近い高評価をつけてくれた。