八ヶ岳の麓でのITトレーニングは
なぜ成功しそうにないのか
私の知人で、大手IT企業から独立して長年、システムエンジニアやソリューション営業担当者に向けた研修・講演を行ってきた人物がいます。彼はチームビルディングや組織づくりにもひとかどの見識を持ち、スタートアップや、企業の新規事業立ち上げなどの支援にも携わるような人なのですが、先日「新しい事業アイデアがあるので聞いてほしい」と持ちかけられ、相談に乗ることになりました。
八ヶ岳の麓に別荘を構えた彼は、その自然環境の豊かさにすっかり惚れ込んでしまい、その地でキャンプ場併設の研修施設を設けて、ITトレーニングやエンジニア教育、チームビルディング支援の事業を行いたいというのです。
聞いていくと「あれもやりたい、これもやりたい」とビジョンは壮大なのですが、「あまりうまくいかなさそうだな」と感じたので、正直にそのことを伝えました。うまくいかないと感じた理由は、なぜその地で事業を展開するのか、なぜその事業内容なのか、といった必然性が薄かったからです。
まず、自然豊かな土地がいい、というのであれば、場所は八ヶ岳のその1拠点でなくてもいいはずです。また、チームビルディングのために職場や普段の業務から離れた場所に集まるだけなら、都会のホテルや温泉旅館などでも成立します。実際、そうした場所でハッカソン(プログラマーやデザイナーなどのチームが集い、制限時間内で集中的にプロダクト開発を競うイベント)を開催する事例はたくさんあります。
この知人は先述したとおり、新規事業の支援やスタートアップのメンタリングなども行ってきた識者です。ですから、初期プロダクトの開発におけるMVPやPoCの重要性についてもよくご存じのはずなのですが、自身のことになると、MVPを絞りきれずにいるようでした。
MVPにはやりたいことを全部盛り込むのではなく、最終的に実現したいビジョンを薄くスライスした状態を目指すべきです。ただし、そこには「Will(やりたいこと、情熱を持って取り組めること)」「Can(やれること、自分が得意な分野)」「Must(やるべきこと、市場性の高さや経済的な原動力)」の3つの要素が全て含まれている必要があります。