そこで、これらの言葉をまず分解しようと提案しました。なぜキャンプ場であり、自然であり、神社なのか。よくよく聞いてみると、「アウトドアではあるけれど、面倒なテント設営や虫などが出るのを我慢する必要はない」「神社は“昔から人々が集う場”としてのイメージで、宗教的な意図はない」といったことが分かりました。

 既存の言葉によるメタファーは、うまくハマればイメージが伝わりやすく便利なのですが、意図していない別のイメージが付いてしまい、色が付いてしまうという欠点もあります。こうしたキーワードは分解して、取り入れるところと取り入れたくないところ、取り入れる必要のないところを分けて考え、伝えるようにするとよいと思います。

デジタルによる効率化で
置き去りにされる価値も

 私は昔から、ものごとを分解して考えてきたのですが、分解して考えることにはさまざまな効用があります。たとえば名刺には、リモートワークの浸透以前から「デジタル化できるのではないか」「不要なものではないか」という議論がありました。そこで「名刺は本当に要らないものなのか」を分解して考えてみたことがあります。

「名刺とは何か」を突き詰めていくと、「相手の肩書きが分かる」「連絡先が分かる」といった基本的な機能のほかに、「アイスブレークに使う」という人が意外と多いことに気づきます。

 ある企業の営業担当者の名刺は、裏面に本人の写真がプリントされているのですが、これが演歌歌手のような出で立ちで大変インパクトのあるものでした。またプログラマーの方から、プログラミング言語の「Ruby(ルビー)」で書かれている名刺を受け取ったこともあります。この業界の人なら「おっ」と思わせることができ、つかみにもなります。プログラマー同士なら、コードの色分けなどから使っているエディタが何か当ててみる、といった話題づくりにも使えます。

 対面でやり取りをするときなど、「デジタルでつながればいい」というわけでないときには、こうした名刺の付加的な価値が際立ちます。デジタル技術で効率化を考えるときには、名刺でいえば名前や肩書き、連絡先の確認といった、最も目立つ要素だけを置き換えて安心しがちですが、分解して考えると、そこにはさまざまな要素が含まれていることに気づくことができるのです。

(クライス&カンパニー顧問/Tably代表 及川卓也、構成/ムコハタワカコ)