事業のキーワードを「分解」して
真にやりたいことを絞り込む

 MVPには、Will・Can・Mustの全要素が入っている必要がある、というのは、ジム・コリンズの著作『ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則』に出てくる「ハリネズミの概念」をもとにした考え方です。ポイントはこの3要素が交差する領域をMVPとすべき、ということです。「やれること」でなければMVPはつくれませんが、そのほかにも将来「やりたいこと」があるなら、それはMVPに含めておかなければなりません。その上で、顧客への提供価値を持つ最小単位のプロダクトで検証を進めるのです。

 先に挙げた知人は私との会話を受けて、その後、プランを考え直してきました。新しいプランは、まずフェーズ1でキャンプ場を開設し、フェーズ2でIT系教育サービスを提供する、というものでした。これは以前聞いた壮大な話からすれば現実的なものとはなっていましたが、私は「それはMVPではない」と伝えました。

 MVPは「最終的に目指すものの最小形態」(下図右下)であって、「目指すものの一部分のみを提供するもの」(下図右上)であってはなりません。

 やりたいことA・B・C・Dが全て入った最小部分がMVPなのであって、これがAだけではMVPとは言えないのです。この知人の場合なら「自然豊かな八ヶ岳の土地」「教育事業」「IT」が全てMVPに含まれている必要があります。なぜならキャンプ場だけを開設してすごく繁盛したとしたら、IT教育を後から加える必然性がなくなってしまうからです。

 キャンプ場を気に入って利用する顧客にとっては、後から追加されるITも教育も、知ったことではありません。逆にIT教育を受けようとして来る顧客にとっては、アクセスが不便で虫が出るような環境での研修なら受けたくない、と避けられる可能性もあります。実現したいことの全てをMVPに含めておかなければ、検証はできなくなってしまうのです。

 規模は小さくても、はじめに実現したい全要素が含まれているMVPがあり、検証を重ねながら目指すものの全体像へとできることが広がっていくのが、うまくいくプロダクトのパターンです。

「やりたいこと」の全てを含みつつ、新規事業の内容を最小形態に絞り込むときには、掲げている“言葉”自体を分解してみるというのも手です。

 知人のケースでは、立派な資料を使って説明を受けましたが、結局何がやりたいのかはよく分かりませんでした。「キャンプ場」「自然」「神社」といったキーワードがちりばめられているのですが、彼がそれらのキーワードで示したい、「真にやりたいこと」が絞り込まれていなかったからです。