出生率が低いのに「少子高齢化」にならない理由

 UAEの人口(2019年)は977万人ですが、1960年代には10万人程度の人口しかいなかったといわれています。「60年間でおよそ98倍!」という単純な話ではなく、出稼ぎ労働者の流入が原因です。

 1980年代の逆オイルショックによって、石油価格が不安定になり、石油や天然ガス以外の産業を発展させようと、新しい産業における労働力の受け入れを進めたことが背景です。

 特に2003年(371万人)から2011年(895万人)にかけては高い水準で人口が増加しました。職を求めてくる外国人の多くが若年層であり、生産年齢人口(15~64歳)に分類されます。

 しかし専門職や技術職、事務職などの仕事は自国民が従事しており、出稼ぎに来ている外国人と自国民との給与には大きな開きがあります。当然、外国人も年齢を重ねていきますが、中高年になると彼らの多くが母国に戻る傾向があります。

 加えて、外国人がUAE国籍を取得するのは非常にハードルが高いのです。周辺のアラブ諸国から移住してきたアラブ人(アラビア語を母語とする人々)は数年間の居住継続後に国籍取得の申請ができます。しかし、非アラブ人の場合は「30年以上の居住継続」かつ、「日常生活においてアラビア語を堪能に使用できる」という条件が求められます。

 また母国から家族を呼び寄せて生活することも難しく、結局はある程度の年齢を重ねると帰国していきます。そして、新しい若年層が職を求めて流入してきます。このため65歳を迎えるほとんどが自国民なのです。

 UAE国民は住民の約1割しかおらず、さらにその一部だけが65歳を迎えるわけですから、全体としての割合は非常に小さくなるわけです。

 つまり「子どもの数が多いから」ではなく、「働いている現役世代が多いから」老年人口割合が小さいのです。

 4ヵ国の生産年齢人口割合は、アラブ首長国連邦が84.1%、カタールが84.9%、バーレーンが78.8%、クウェートが75.7%と高くなっています(日本は59.4%。1992年をピークに断続的に減少)。「合計特殊出生率が高くないのに、老年人口割合が低い状態を維持できている」のはこうした背景があるのです。

(本原稿は、書籍『経済は統計から学べ!』の一部を抜粋・編集して掲載しています)