世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されないための「データと視点」
人口問題、SDGs、資源戦争、貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫る! データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあり方を理解する。
書き手は、「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動している。『経済は統計から学べ!』を出版し(6月30日刊行)、「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つの視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台としての統計データ」をわかりやすく解説している。
シリコンヴァレーが発展した意外な理由
本日は、アメリカ合衆国の情報産業の歴史を見ていきましょう。
1960年代はアメリカ合衆国の全盛期でした。それまでのアメリカ合衆国の産業の中心は重工業。メサビ鉄山からとれる鉄鉱石とアパラチア山脈の石炭が、五大湖の水運で結びつきピッツバーグを中心に鉄鋼業が発達しました。これを基盤としてデトロイトで自動車工業が発達し、周辺には自動車関連産業が集積していきました。
第三次産業の比率はすでに1950年代半ばには50%を超えていましたが、アメリカ合衆国の本格的な「産業構造の変化」は1970年代から始まりました。「モノの経済」から「サービスの経済」への転換が起き、情報通信技術が発展していきます。
アメリカ合衆国の「産業構造の転換」の原因は、北部地域の重工業の衰退と南部地域への産業集積が考えられます。
当時、アメリカ経済の中心地は五大湖周辺の北部地域でした。比較的寒冷な地域であるため、フロストベルト(もしくはスノーベルト)と呼ばれます。北部地域は古くから労働組合が強く、労働者が要求する「高い給料」はアメリカ合衆国の国際競争力を奪っていきます。
1960年代は日本や西ドイツ(当時)といった敗戦国の戦後復興期でもあり、安くて質の良い工業製品が世界市場へ出回るようになっていきます。
さらに、1970年代の二度のオイルショックによって燃料費が高騰し、北部地域の各種工業が大打撃を受けました。これによって失業率が上がり、工業都市は法人税や所得税が減少して財政難になると、インナーシティ問題が顕在化しました。
インナーシティ問題とは、都市の中心部で起こる衰退現象とその問題のことです。高所得者層や若年層が流出することで、住環境の悪化や犯罪などが起こるようになりました。
代わって発展したのが北緯37度以南のサンベルトと呼ばれる地域です。