米国では殺人、自殺、誤射事件を含め年間約4万人が銃で命を落とし、公衆衛生上の重大な脅威となっている。にもかかわらず、国民の銃所持の権利を認めた憲法修正第2条や銃ロビー団体の「全米ライフル協会(NRA)」などの影響が強いため、銃規制はほとんど進んでいない。

 そんななか、新型コロナウイルスの感染拡大で社会不安が高まり、銃の購入が増えた結果、銃による暴力や犯罪が急増。つまり、パンデミックによって、長い間放置されてきた銃暴力の問題が最悪化していることが浮き彫りとなったわけだが、果たしてこの状況を改善する策はあるのか。

 自ら先頭に立って銃暴力対策に乗り出したクオモ知事やバイデン大統領に加え、すべての銃購入希望者に身元調査を義務づける銃規制強化の法案可決を目指す議会民主党の動きを追った。

銃販売数が
4割増加

 米国では新型コロナの感染拡大が始まった2020年3月以来、銃の売り上げが急増している。

 銃による暴力や犯罪に関する研究調査を行っている団体「エブリタウン・フォー・ガン・セーフティー(EFGS)」によると、2020年に米国人が購入した銃の数は約2200万丁で、前年よりも40%増加した。そしてこの傾向は2021年に入っても続き、同年1月~3月の期間に590万丁の銃が販売されたという。

 EFGSでは、銃の購入が増えた背景にはコロナ禍での孤立や失業、経済的困窮などによる不安の高まりに加え、「政府はいざというときに頼りにならない」「自分の身は自分で守らなければならない」という「銃社会」特有の自衛意識の高まりがあるのではないかと分析している。

 米国で銃の売り上げが急増することによって起こる最大の問題は、銃規制が緩く、銃購入希望者の身元調査がきちんと行われていないため、多くの銃が違法に販売されてしまうことである。

 政府の認可を受けた販売業者には銃購入希望者の犯罪歴などをチェックする身元調査が義務づけられているが、これはインターネット通販や全米各地で行われるガンショー(銃の展示即売会)での購入には課されていない。また、政府の認可を受けていない違法な銃販売業者も数多く存在する。そのため、危険な銃が犯罪歴や悪意、社会への恨みなどを持った人たちの手に渡ってしまい、銃犯罪の急増を招いているのである。