転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。「ビズリーチ」の名前を捨てる――。2018年、ビズリーチ創業者の南壮一郎さんは、グループ経営体制への移行を決断し、新会社のブランド構築をクリエイティブディレクターの小西利行氏に託しました。博報堂出身のクリエイターで2006年に独立、POOLという会社を経営している小西さん。トヨタ自動車やサントリーといった大手企業の広告のコピー制作を始め、ブランド戦略やマーケティング、企業アイデンティティのコンサルティングなど、企業メッセージを的確に伝えるプロとして幅広く活動しています。小西さんに、「ビジョナル」という企業ブランドが生まれるまでの舞台裏について聞きました。
――小西さんは、ビズリーチのグループ経営体制移行に伴うブランディングを一手に引き受けました。
小西利行さん(以下、小西) (ビズリーチ創業者の)南さんとのプロジェクトが始まったのは、2018年の10月でした。以前から南さんを個人的には知っていたけれど、当時、南さんが企業ブランディングを考えられる人を探していたということで、一緒にご飯を食べたんです。
誰かを連れて行きましょうかと言ったら、南さんが「1対1で会いたい」と言うので、「何だろう、すごく緊張するな」と思っていたのを覚えています。その席で、彼はビズリーチの今後について話してくれたんです。
ちょうど、ビズリーチが創業10年目に向かう時期で、会社としても急成長していろいろなサービスを展開してきた。でも、南さんとしては、まだまだやりたいことがあって、ビズリーチという屋号だけだと手狭になってきたという悩みがある、と話してくれたんです。「この先、会社をどう発展させていけばいいか。ホールディングカンパニーも考えている」と。
南さんは、僕が企業のブランディングや会社創立のお手伝いをしていたのを知っていて、「それが、どんなものかを知りたい」と言ったんです。それでお話ししたところ、「じゃあ、コニたんに頼みます」という感じで始まりました(笑)。
南さんの話を聞いて、彼そのものがとてもおもしろい人だなと興味を持っていたこともあり、自然な流れでプロジェクトが始まっていきました。
――起業家としての南さんに興味を持ったわけですね。
小西 そうですね。ただ、僕はいろいろな仕事をさせていただくときに、いきなり自分で考えたアイデアをぶつけるタイプではなくて、割とリサーチを大事にしています。
そこでビズリーチの場合も、最初は南さんに「コアメンバーにヒアリングしたい」とお願いして、創業メンバーの竹内(真・ビジョナルCTO=最高技術責任者)さんや永田(信・ビジョナルインキュベーションCEO)さんに取材をさせてもらいました。
竹内さんや永田さんと話をして印象的だったのは、ビズリーチという言葉に対する向き合い方でした。確かにサービスやビジネスにはものすごくコミットはしているんだけれど、そこまで固執しているわけでもなかったんです。
――どういう意味ですか?
小西 例えば、創業した会社がビズリーチなら、おそらく持ち株会社も、「ビズリーチホールディングス」にするのが普通はいいと思うじゃないですか。だけど、二人はそこまで「ビズリーチ」という名前に固執していなくて、むしろ新しい形に進化すべきではないかと考えていたんです。
「これから技術や社会構造が変化して、どんどんと新しい課題が生まれていく。そうした課題に目を向けて解消していくことが自分たちの事業の根幹だから、あまり特定の領域に事業をしぼり込みたくない」と言っていたんです。
普通は自分たちの手掛ける事業領域を明確にしていきます。例えば人事の領域だけに事業を絞るなら、「世界で一番働き方を変えていく」とか「すべての人たちが幸せに働けるようにする」といった具合に、「働く」という点にフォーカスしたりしますよね。
だけど彼らがイメージしていたのは、もう少し広かったんです。土台に情報技術の領域があることは間違いないけれど、それでも特定の領域に制限したくない。むしろ、「僕たちは新しい可能性があったら背中を押す」みたいイメージを持っていたんです。
だから、「我々はこの領域に突き進む」とは宣言したくない、と。仮に将来、変化が起きてその領域に課題がなくなったら、「言っていることとやっていることが違う」となりかねない。それを表舞台で訴えるのは南さんで、彼にウソはつかせたくない、と言っていたんです。「だからビジョンという言葉はあまり使いたくない」と言われた記憶があります。
(2021年8月6日公開記事に続く)