英国軍との連携

 そして、特筆すべきは「ナイチンゲール病院」が、英国軍の「民間人に対する軍事援助」の規定に基づいて、英国軍の「コロナ支援部隊」との連携で設置された「野戦病院」だったということだ(“COVID Support Force: the MOD's contribution to the coronavirus response” )。

 パンデミックの初期段階から、NHSと英国軍の協力体制が構築されていたということが重要である(“Covid Support Force: the MOD’s contribution to the coronavirus response” )。

 2020年3月18日、英国国防省はコロナ支援部隊の編成を発表した。パンデミックに対処するために、約2万人の軍人が英国内の公共・民間サービスを支援するために動員された。コロナ対応で公共施設、民間企業のサービスが滞ったりする緊急事態が生じたときに、英国軍が出動して、それを補うためであった。

 ナイチンゲール病院開設の支援は、コロナ支援部隊の活動の一つとして行われた。既存施設を使用して「野戦病院」を設置するノウハウと経験を生かし、病院建設の手伝いや後方支援を行った。

 例えば、ロンドン・エクセルセンター国際会議場のナイチンゲール病院は、700人の軍人が参加し、わずか9日間で建設された。それを皮切りに、英国各地で既存施設が野戦病院化された(“In case of emergency: The Army and civil assistance” )。

 また、病院開院後も、野戦病院運営に関する支援を提供し続けた。軍人が、ナイチンゲール病院の医療スタッフ支援に派遣されたり、機器のメンテナンス、病院内店舗管理など、幅広い臨床支援活動を行った。

 その他にも、英国軍のコロナ支援は多岐にわたっている。軍・防衛装備品サポートは、2020年2月から5月の間に、個人用保護具(PPE)を11億個、1億5800万個のマスク、1億8400万個のエプロン、230万個のガウン、およそ7億組の手袋、酸素濃縮器や加湿器などの重要な医療機器や人工呼吸器をNHSに提供した。

 英国軍は、マクラーレンをはじめとするF1チームの支援を受けた民間のコンソーシアムによる人工呼吸器の生産を支援している。このコンソーシアムは、2020年6月末までに約1万5000台の新しい人工呼吸器を生産した。

 さらに、英国空軍は、コロナ患者の搬送や、NHSスタッフの移動、医療機器の輸送等を支援するために、「コロナ航空タスクフォース」を新たに設置した。これは、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドなどの地方や、離島から英国本土への患者の緊急搬送などに貢献した。

 このように、英国軍は、コロナ対応の「医療体制」の確立のために、「野戦病院」の設置・運営等のさまざまな支援をしてきた。英国が、日本の数十倍のコロナ感染者・死亡者を出しながら、医療崩壊を起こすことがなかったことに、多大なる貢献を果たしてきたのである。