ベータブロッカーは、血圧や心拍数を抑えることで、高血圧や頻脈性不整脈、狭心症などを改善することを医薬品だ。血圧を下げるための薬なので、これを服用していると、アドレナリンを投与しても、血圧が戻らず、呼吸状態が安定してこないことがある。

 こうしたケースでは、アドレナリンではなく、強心作用のあるグルカゴンなど別の薬剤で血圧の上昇を促す必要が出てくる。アナフィラキシーショックは、症状が出た初期段階で処置した方が救命率は高まるが、患者が日常的に服用している薬が分からないと、その原因を突き止めるのに時間がかかる可能性があるのだ。

 だが、「おくすり手帳」を携帯していれば、薬の相互作用による問題点は見つけやすくなるのだ。

「おくすり手帳」を携帯していれば
万一の急変にも即座に対応できる

 薬は、正しく使えば、病気やケガの回復を助けてくれるが、飲み合わせが悪かったり、用量・用法を守らなかったりすると、薬効が薄れたり、副反応が強まったりして、思わぬ健康被害を受けることがある。ベータブロッカーとアドレナリンの相互作用も、その一例だ。

「おくすり手帳」は、複数の医療機関から処方される薬の情報を1冊の手帳にまとめて記録することで、薬の相互作用や重複投与などによる事故を未然に防ぐために作られたものだ。

 当初は、一部の薬局や病院が患者を薬害から守るために任意で使っていたものだったが、その効果が期待されて、2000年から正式に国の制度に採用されている。

 現在は、薬局には、患者に調剤した薬について、おくすり手帳に記載して情報提供することが義務づけられており、手帳を見れば、その患者が日常的に使用している薬は一目で分かる。

 COVID-19のワクチンを接種した後、急に気分が悪くなったりした場合、普段服用している薬を自分で説明できればいいが、意識レベルが低下していると、それもままならないこともある。

 ワクチンの接種時には予診票を提出するので、普段服用している薬については、接種前に確認されるが、短時間の問診では服用している薬を全て確認するのは難しいこともある。

 その点、「おくすり手帳」なら、これまでに調剤された薬の情報が時系列で記載されているので、服用している薬が一目で分かる。「おくすり手帳」を携帯していれば、医師や薬剤師などが手帳に記載されている情報から、適切な処置を判断しやすくなるのだ。

 アナフィラキシーショックが起こるのは、非常にまれなことではあるが、万一に備えて、ワクチンの接種会場には、接種券や予診票と共に、必ずおくすり手帳も持参するようにしよう。