3回しか会ったことのないアルバイトからも信頼される理由

――なるほど。たしかに、上司がそのような態度でいてくれると、部下としても自分の希望が伝えやすくなるかもしれません。

藤﨑:「全部応援するよ」というのは、よく伝えていますね。「お店をもっとよくするために、やりたいことがあったら言って。全部応援するから」と。ポスター必要だったらもっと刷るよ、とか。現場で働いているスタッフたちがやりたいことを言えない関係は、よくないと思うので。

――いやー、すごい。それができなくて苦労している経営者の方、ものすごくたくさんいらっしゃると思います。部下と信頼関係を結べない、風通しをよくしたいのに、やり方がわからない、という悩みは私もよく耳にしますし。

藤﨑:そうですね、このあいだも、すごくありがたいことがあったんです。アルバイトの子から私の携帯に電話があって、仕事の相談をしてくれて。

――ええ! アルバイトの方から、社長の藤﨑さんに直接ですか? 仲のいい方だったんですか?

藤﨑:会ったのはたしか、3回くらいでしたけど、私がスーパーバイザーを担当していた時代に話していた子でした。そのとき「何かあったら連絡ちょうだいね」と、連絡先を伝えていたんです。

――でも、藤﨑さんはそのあと社長になられたわけですよね。アルバイトだったら、社長に相談するのってハードルが高いんじゃないかなと思うんですが……。それだけの関係性が築けていたということでしょうね。

藤﨑:うん、そうだといいなあと思っています。ただ、私たちの会社もまだまだ発展途上ですから、これからもっと気をつけていかなきゃな、と。店舗にもあまり行けてないですしね。でも、どんな仕事をするときにも、「心を尽くす」というのは心がけてきました。それは、スーパーバイザー時代も社長になった今も、一貫していることです。

だから、そのアルバイトの子に相談をもらったあと、私にできることはしようと思って、すぐに行動に移しました。本社のメンバーに、店舗で改善できることはないかどうか調査を依頼して、すぐにできることは実施してもらって。

――アルバイトの方も、そこまで真剣に聞いてくださって、問題解決までしてくれたらすごく嬉しいでしょうね。

藤﨑:その子からはこのあいだ、「社長、ありがとうございました」って電話をもらいました。

――いやー、すごいですね。本当に。なかなかできることじゃないと思います。

藤﨑:たまたまだと思うんですけどね。でも、思い出してくれて、すごくありがたいと思った。嬉しかったです。頼ってもらえたこと自体というよりも、みんなの意識が高いことがわかったのが嬉しくて。それに、「もっとお店をよくしたい」という提案が受け入れてもらえる会社だ、と信頼してもらえたこともありがたいなと感じました。店舗改善のためにすぐに動いてくれた、私の直属の部下たちのスピード感も素晴らしかったです。

――社員に愛される組織をつくるためにいちばん重要なことは、何だと思いますか。

藤﨑:私は、数字ではなく『人への思い』こそ、ビジネスにおいては大切だと思っています。もちろん、会社として従業員の生活を守ることは大前提ですし、慈善事業ではありませんから、利益を出すことは最低限必要です。けれど、『ただ成長すればいい』という考え方だけでは、社員みんなが生き生きと活躍できる組織にはならない。成長させることばかり考えるのではなく、「お客様とスタッフがハッピーになること」に視点を向けられていれば、変な小細工もする必要はなくなるはずです。

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「本音が言えない職場」をつくるヤバい上司の正体

藤﨑忍(ふじさき・しのぶ)
1966年、東京都生まれ。青山学院女子短期大学卒。政治家の妻になり、39歳まで専業主婦。しかし夫が病に倒れ、生活のために働き始める。最初はギャルブームの頃のSHIBUYA109の店長。若い店員とのコミュニケーションがうまく、また店頭ディスプレーのセンスも良く、店の売上は倍増。ところが経営方針の変更により、退職。アルバイトでしのぐが、たまたま空き店舗を見つけ、居酒屋を開業。すると料理の美味しさや接客の良さで一躍人気店に。その腕を常連客に見込まれ、ドムドムのメニュー開発顧問に。「手作り厚焼きたまごバーガー」をヒットさせ、ドムドム入社。その後わずか9ヵ月で社長に。「丸ごと!!カニバーガー」などが話題になり、ドムドムの業績は確実に回復している。テレビ朝日系「激レアさんを連れてきた。」出演で話題に。著書に『ドムドムの逆襲』(ダイヤモンド社)。
(撮影/ホンゴユウジ)

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